[特集]

IoTを活用しVPP(仮想発電所)を目指すデマンドレスポンスと分散エネルギー資源の統合

― 新ビジネスに向けて「ERABフォーラム」と「ERAB検討会」がスタート ―
2016/05/09
(月)
SmartGridニューズレター編集部

分散電源を効率的に活用するVPP

〔1〕電力の需給バランスの仕組み

 これまで、日本のエネルギーミックス、分散エネルギー資源の統合、デマンドレスポンスの動きなどを解説してきたが、以降では、日本における電力の需要と供給(需給)のバランスのとり方や、分散電源を効率的に活用するVPP(Virtual Power Plant、仮想発電所)などの動きを紹介する。

 図4に、電力の需要と供給(需給)バランスの仕組みとエネルギーリソースの関係を示す。図4では、縦軸に電力の「需要」を、横軸に「発電」を示すが、電力の安定供給のため最も重要なことは、斜めのブルーの線が示す、「需要と供給の一致」である。すなわち、これを実現するにはさまざまな方法がある。

(1)発電より需要のほうが多い場合(需要>発電)は「ポジワット(発電の増加)」、または「ネガワット(省電力)」を行う

(2)需要より発電のほうが多い場合(発電>需要)には‘発電の抑制’、あるいは‘需要創出’を行う

などを組み合わせることによって需給バランスをとっている。

 前述したように、今後、需要家側には、いろいろな資源(太陽光発電、エネファーム、蓄電池、電気自動車等々)が普及していくため、それらの需給バランスをとるためには、さまざまな資源の制約も考慮して組み合わせて統合する仕組みを考えていく必要がある。

 図4に「適切にアグリゲーション」注8とあるが、これは需要家側の資源の数は多いが、1つ1つの容量は小さいため、それらを系統運用者(電力会社)が使える形にするには、需要家側の各資源をきちんと束ねて(アグリゲートして)、提供する仕組みが必要となる、ということである。

図4 電力の需給バランスに貢献するエネルギーリソース

図4 電力の需給バランスに貢献するエネルギーリソース

出所 スマート社会・電力自由化に向けた取り組み最前線セミナー、石井英雄「デマンドレスポンスと分散エネルギー資源の統合に向けて」、2016年3月9日

〔2〕分散資源と系統を協調

 このような背景から、今後増加する分散リソースと系統電力を協調・連携させることが重要になる。この場合、両者が単純につながっている(Connected)というだけでなく、統合(Integrated)された資源にすることによって、持続的に電力品質の維持を保っていくことが、今後の新しいエネルギーシステムとして求められる。さらに、国の制度として確立していくことが重要である。

エネルギーリソースを統合してVPPを実現へ

〔1〕ERABフォーラムとアグリゲーション・ビジネス検討会の連携

 以上述べてきたように、急ピッチで導入が進む、需要家側の太陽光発電や蓄電池、電気自動車、燃料電池など分散型のエネルギーを、IoTによってアグリゲート(集約)し、新しいビジネスモデルの構築を目指す、産学主体の技術開発を行うフォーラム「ERABF」注9が、2016年1月26日に設立された。

 このフォーラムには、日本を代表する電力会社、ガス会社、電機メーカー、自動車メーカー、アグリゲータ、住宅・デベロッパー、通信会社などが参加している。このERABフォーラムは、直後の2016年1月29日に発足した、経済産業省で諸課題の解決を目指す「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス検討会(ERAB検討会)」注10と連携して、当該ビジネスの発展を支援していく。

〔2〕IoTを活用してVPPを実現へ

 2015年11月の“未来投資に向けた官民対話”の場において、「節電(ネガワット)のインセンティブを高め、家庭の太陽光発電やIoTを活用して節電した電力量を売電できる‘ネガワット取引市場’を、2017年までに創設する。そのため、2016年度中に、事業者間の取引ルールを策定し、エネルギー機器を遠隔制御するための通信規格を整備する」という総理指示が出された。

 このような大方針に同期させて、ERABフォーラムならびに同検討会では図5に示すように、

 (1)リソースアグリゲータが、需要家側に設置されているエネルギーリソース(太陽光発電、蓄電池、電気自動車、エネファームなど)を統合して遠隔制御できるようにする

 (2)さらに、IoTを活用して、需要家群を統合することによって(分散するエネルギーリソースを束ねて)、あたかも大規模な発電所と同等の機能を発揮する1つの発電所、すなわちVPP(仮想発電所)であるかのように機能させて、系統電力の調整力としても活用できるようにする

ことを目指している。

 このように、VPPを実現させ、系統電力への負担を軽減させて、再エネの導入の拡大を容易にすることによって、環境への負担を軽減させ(CO2の削減など)、電力の安定供給の確保などを実現する。さらに、図5の右に示す、石油火力発電所などの既存の燃料費に対する調整力の代替えによる経済性の向上によって、3つのE注11の達成にも貢献できるようになる。

図5 IoTを活用した需要家側のエネルギーリソース・アグリゲーション(VPP)

図5 IoTを活用した需要家側のエネルギーリソース・アグリゲーション(VPP)

出所 http://www.waseda.jp/across/wp-content/themes/across/erabf_img/erabf/img_about.png

 図6に、ERABフォーラムとERAB検討会の活動スケージュールと5カ年にわたるVPP構築事業の位置づけを示す。

図6 「ERABフォーラム」と「ERAB検討会」の活動スケージュールと5カ年計画のVPP事業

図6 「ERABフォーラム」と「ERAB検討会」の活動スケージュールと5カ年計画のVPP事業

出所 http://www.waseda.jp/across/erabf/http://www.waseda.jp/across/wp-content/themes/across/erabf_img/erabf/img_schedule.png


▼ 注8
アグリゲート(Aggregate)とは、集める(収集する)という意味であり、電力分野におけるアグリゲータ(Aggregator)とは、ネガワット(節電した電力量)を集める事業者のこと。

▼ 注9
ERABF:Energy Resource Aggregation Business Forum、エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス・フォーラム。参加企業:32社(2016年4月20日現在)http://www.waseda.jp/across/erabf/member/

▼ 注10
第1回:2016年1月29日、第2回:2016年3月30日、http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment/energy_resource/pdf/001_01_00.pdf
http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment.html#energy_resource

▼ 注11
3つのE:Energy Security(エネルギーの安定供給)、Economic Efficiency(経済性)、Environment(環境への適合)のこと。これにSafty(安全性)を加えて、「3E+S」といわれる場合もある。

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