[プロダクト]

IBMの気象予測・解析システム「Deep Thunder」と発電量予測ソリューション「HyREF」

2014/07/01
(火)

IBMの再生可能エネルギー発電量予測ソリューション「HyREF」

IBMでは、再生可能エネルギー発電量予測用途に向けては、変分法とアンサンブルカルマンフィルタ注11を合成し、それぞれの特長をもつデータ同化手法を実用化した、再生エネルギー発電予測ソリューション「HyREF」を開発した。このHyREFでは、気象解析格子点の水平空間分解能を、風力発電の風車の設置間隔に近い200m程度まで上げることが可能である。

図3に、同システムのアーキテクチャを示す。この気象予測モデルには、Deep Thun-derなどのWRFベースの気象モデル以外の気象モデルとの組み合わせも可能である。

図3 ハイブリッドデータ同化型再生可能エネルギー予測システム(HyREF)のアーキテクチャ

図3 ハイブリッドデータ同化型再生可能エネルギー予測システム(HyREF)のアーキテクチャ

その他、2013年に米国エネルギー省のプロジェクトにおいて米国内の太陽光発電所における基礎的な実証実験を終了した異なる気象モデル、衛星観測、地表実測(観測・予測時間の異なるものも含めて)などを機械学習により最適な重み付けをして組み合わせ、確度高く太陽光発電などの発電量予測を行う予測システム「Watt-Sun」を開発し注12、現在、地域を変えて実証実験を行っている。

中国国家電網の大規模再生可能エネルギー実証プロジェクトでシステム導入例

ここでは、再生可能エネルギー予測システムの導入例として、中国国家電網(SGCC:State Grid Corporation of China)の大規模再生可能エネルギー実証プロジェクトである「670MW-張北実証プロジェクト」(風力500MW、太陽光100MW、蓄電池70MW)における、HyREFによる発電電力量予測について紹介する。

同プロジェクトが実施された河北省張家口市張北(L/L: 41.062527,114.37314)は、山間に位置する複雑な地形であり、周囲の山々の影響で発生する縦方向の風が予測結果に影響し、これを考慮する必要があった。

また発電所は幅1km、長さ15kmという形状をしており、1つの狭域気象モデルで発電所全体を包含することは難しく、風力発電の風車ごとの気象観測値を用いて風車ごとにデータ同化することで、タービンの発電量予測を個々の風車単位で行うことを可能とした注13

その結果、1日先予測において風力発電で平均予測誤差8%(RSME、後述)、太陽光発電で平均予測誤差15%(RSME、後述)程度を確認している。一般に、20%のRMSEが性能の目安として求めらているが、実際のところ、太陽光などでは20%の達成も難しいとされている。

このシステムは、2011年3月より実運用されている。図4、図5に、同プロジェクトにおける風力予測評価データの一部を示す。

図4 1日先予測と実測の比較

図4 1日先予測と実測の比較

図5 5日間予測と実測の比較

図5 5日間予測と実測の比較

図4、図5は、03:00から、翌日21:00までの24時間の風力を予測し、実測との比較を行ったものであるが、高い予測確度を示している。この精緻な風況予測を、統計的に求めた発電量予測(ここでは省略)モデルに入力することで、正確な発電量予測が可能となる。

実測と予測の差である予測誤差については、予測開始時間(例えば0〜4時間、4〜24時間など)などを考慮し、電力系統への影響、経済的メリットなどの観点からの考察を加えた種々の評価法が提案されている。注14、注15、注16

予測する時間幅によって、例えば1日先であれば、どの時点でどの発電機を起動するかを決める「ユニットコミットメント」(UC)に予測結果が利用され、数時間先の予測であれば、すでにUCした電力量の補償に関わるものとなり、予測誤差に対する経済的な影響は大きくなる。

したがって、実際の運用では、それらを考慮した評価式が有効になることが考えられる。しかしながら一般には、2乗平均平方根誤差(RMSE:Root Mean Square Error)や、平均バイアス誤差(MBE:Mean Bias Error)、平均絶対誤差(MAE:Mean Absolute Error)等が発電予測技術の性能比較に用いられることが多い。

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