[プロダクト]

IBMの気象予測・解析システム「Deep Thunder」と発電量予測ソリューション「HyREF」

2014/07/01
(火)

発電予測技術の性能比較に用いられる「RMSE」「MBE」「MAE」

ここで参考のため、「RMSE」「MBE」「MAE」について解説する。

2乗平均平方根誤差(RMSE)は、個々の観測値と予測値の差分のばらつきの程度を表すために用いられる。この方法は、気象庁の予測において気温の予測誤差の評価に用いられている。観測値をIMk、予測値をIFkと表したとき、RMSEは次のように表される。なお、Nはサンプル数を表す。

また、予測の系統的誤差を示すものとして、平均バイアス誤差(MBE)が用いられる。

標準偏差とこれら評価式との間には、次の関係がある。

* * *

複雑な地形や気象条件をもつ日本において、精緻な数値気象予測に基づく確度の高い発電予測をDeep ThunderやHyREFによって提供し、急速に拡大する国内における風力発電や太陽光発電所の発電電力の有効利用に貢献していきたい。

また、本稿では詳しく紹介できていないが注17、機械学習をベースにした発電電力予測システムを国内で実証する機会を設けていきたい。確度の高い予測と連携して、最適なユニットコミットメント(UC)、パワーディスパッチ(給電)を行う(ソフトウェア)システムの実証なども今後は進めていく注18

◎Profile

櫻井 秋久(さくらい あきひさ)

櫻井 秋久(さくらい あきひさ)

日本アイ・ビー・エム株式会社 研究開発 ビジネス開発 スマーター・シティー領域 技術理事

1982年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。藤沢研究所にて世界向け汎用端末の製品開発に従事。その後、製品技術部門へ異動し、製品試験技術担当(マネージャ)を経てEMC(Electromagnetic Compatibility)技術開発担当に就任。主として数値シミュレーションを応用したEMC製品設計技術の研究、開発に従事。2000年にIBMシニアテクニカルスタッフメンバー(STSM)に、2005年にIBMディスティングイッシュド・エンジニア(技術理事)にそれぞれ就任。2005年より大和研究所・技術開発センター担当。2010年よりR&D部門を積極活用した新規ソリューション、事業開発に従事。IEEE、電子情報通信学会会員。

岡原 勇郎(おかはら いさお)

岡原 勇郎(おかはら いさお)

日本アイ・ビー・エム株式会社 GBS,ビジネスアナリスティックス&オプティマイゼーション 
エンタープライズインフォメーションマネージメント,ソリューションオーソリティ

1985年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。大型汎用コンピューターのシステムエンジニアとしてキャリアを積み、IT Architectとして主に製造業の顧客向けシステムの構築プロジェクトに長年携わる。その後Global Business Service事業に所属し、2010年よりSmart Energy、Watson Technology関連事業で先進プロジェクトのプロジェクトマネージャーを担当、現在に至る。


▼ 注1
[参考文献]石橋他、太陽光発電の発電量予測技術、富士電機技報 VOL.86, No.3

▼ 注2
[参考文献]L. Treinish and A. Praino, “The role of meso-γ-scale numerical weather prediction and visualization for weather-sensitive decision making”, presented at the Forum Environmental Risk Impacts Society: Successes Challenges, Atlanta, GA, 2006, Paper 1.5.

▼ 注3
[参考文献]特許登録番号:3950928 号、風力発電における発電出力予測方法、発電出力予測装置及び発電出力予測システム

▼ 注4
豊富な物理モデル:例えば雲マイクロ物理、積雲、境界層など8種類あり、それぞれに複数のモデルが用意されており、それらを組み合わせて、最適な気象モデルをつくることができる。

▼ 注5
[参考文献]田村他、太陽光発電のための日射量予測手法の開発(その1) -気象予測・解析システムNuWFASによる翌日の予測精度の評価-、電力中央研究所研究報告N10029, 2011-042010-01-31

▼ 注6
[参考文献]L.A.Treinish et al., Enabling high-resolution forecasting of severe weather and flooding events in Rio de Janeiro, IBM J. RES. & DEV. VOL. 57 NO. 5 PAPER 7 SEPTEMBER/OCTOBER 2013

▼ 注7
水平分解能:水平方向の解析粒度1km(1kmごとの格子点まで解析密度を上げるということ)。

▼ 注8
時間分解能:気象変化を分刻みで予測するということ。

▼ 注9
データ同化:気象モデルへの入力である初期値に実際の気象観測値を取り込み、予測精度を上げることである。しかし、データ同化には数多くの仮定、パラメータがあり、その決定には経験に基づく技術的判断を必要とされるため、チューニング工数が膨大となり、効果的なデータ同化は一般に行われていない。Deep Thunderでは複数の気象観測値を用いるが、観測システム手法に合わせて個々に異なるインタフェースの開発が求められる。

▼ 注10
大気鉛直方向総数:地表からの気象変化を解析するために、約20kmまでの大気層を何層に分けるかということ。数値が細かいほど正しく気象変化を捉えることができるが、計算量が増える。

▼ 注11
変分法とアンサンブルフィルタについては次を参照していただきたい。
[参考文献]三好他、気象学におけるデータ同化、2007年4、天気54(4)、社団法人日本気象学会

▼ 注12
[参考文献]インターネット記事、IBM has a machine learning project to forecast solar and of course it’s called (LOL) Watt-sun,
https://gigaom.com/ 2014/06/05/ibm-has-a-machine-learning-project-to-forecast-solar-and-of-course-its-called-lol-watt-sun/

▼ 注13
[参考文献]Yan Zhongping et al., Integrated wind and solar power forecasting in China, 2013 IEEE International Conference on Service Operations and Logistics, and Informatics, pp. 500 - 505, 28-30 July 2013

▼ 注14
[参考文献]H.G.Beyer et al., “Report on Benchmarking of Radiation Products,” (2009)

▼ 注15
[参考文献]Zhang, J. et al., (2013). Metrics for Evaluating the Accuracy of Solar Power Forecasting (Presentation). NREL (National Renewable Energy Laboratory). 19 pp.; NREL Report No. PR-5D00-60465.

▼ 注16
[参考文献]田村他、太陽光発電のための日射量予測手法の開発(その2)-予測誤差の分析と精度改善法の検討-, 電力中央研究所研究報告N13013, 2014-04

▼ 注17
[参考文献]Siuan Lu et al., A multi-scale solar energy forecast platform based on machine-learned adaptive combination of expert systems, American Meteorological society
https://ams.confex.com/ams/94Annual/webprogram/Paper234392.html

▼ 注18
[参考文献]J. Xiong, P. Feldmann et al. “Frame-work for Large-Scale Modeling and Simulation of Electricity Systems for Planning, Monitoring, and Secure Operations of Next-generation Electricity Grids,” Computational Needs for Next Generation Electric Grid (2011)
http://certs.lbl.gov/next-grid/pdf/7-white-paper-xiong.pdf

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