日本のエネルギー政策の流れと「エネルギー革新戦略」
─編集部:今年(2016年)4月1日から、日本における電力システム改革の第2弾である電力小売全面自由化がスタートしました。その直後の2016年4月19日、経済産業省から「エネルギー革新戦略」(総ページ数:33ページ注1)が発表され、話題となっています。
吉川:はい。まず、政府の最近のエネルギー政策の流れを簡単に整理して述べますと、経済産業省は、2015年7月に、エネルギーミックス(長期エネルギー需給見通し注2)をまとめ、発表しました。これは将来のエネルギー政策のあるべき姿をまとめた「エネルギー基本計画」(2014年6月注3)を基本として、2030年までの将来にわたるエネルギー需給の見通しをまとめたものです。
このエネルギーミックスでは、2030年までに省エネルギー(以下、省エネ)によって、エネルギー効率を石油危機後並みの35%改善(後述)することや、2030年における再生可能エネルギー(以下、再エネ)を22〜24%にするなどの先進的な目標を設定しました(図1)。
図1 2030年度におけるエネルギーミックス(再エネ比率:22〜24%)
出所 資源エネルギー庁提供資料より
しかし、これを実現するには、市場動向に任せてこれに依存するのではなく、国として総合的な政策措置が不可欠なのです。そこで、このほど新たにIoT(Internet of Things)を活用したエネルギー産業の革新などを含む「エネルギー革新戦略」を策定し、2016年4月19日に発表したのです(図2参照)。
図2 政府の最近のエネルギー政策の流れ
出所 各種資料をもとに編集部で作成
「エネルギー革新戦略」は、エネルギー投資を促し、エネルギー効率を大きく改善し、「強い経済」と「CO2抑制」の両立を実現していく計画となっています。この戦略の実行によって、2030年度には、省エネや再エネなどのエネルギー関連投資が28兆円と予測され、そのうち水素関連に対して1兆円の投資効果が期待されています注4。
─編集部:昨年末(2015年12月)にフランス・パリで開催されたCOP21注5では、米中および発展途上国を含む196の国と地域が、全会一致で温室効果ガスの削減に取り組む、新たな国際的な枠組みである「パリ協定」が採択されましたね。
吉川:はい、その通りです。COP21「パリ協定」の採択を受け、政府は、温室効果ガスの削減目標の達成に向けた「地球温暖化対策計画」注6を策定し、2030年度の温室効果ガス削減目標を、2013年度比で26.0%減(2005年度比で25.4%減)とする閣議決定(2016年5月13日)がなされました。この削減目標は、前述したエネルギーミックスと整合性をとって策定されたものであるため、まさにエネルギーミックスを達成することが、削減目標を実現することになります。
▼ 注1
http://www.meti.go.jp/press/2016/04/20160419002/20160419002-2.pdf
▼ 注2
長期エネルギー需給見通し、http://www.meti.go.jp/press/2015/07/20150716004/20150716004_2.pdf
エネルギーミックス:安定した電力供給を行うため、再生可能エネルギーや火力発電、水力発電など多様なエネルギーを組み合わせて電源を構成し最適化すること。
▼ 注3
エネルギー基本計画、http://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/pdf/140411.pdf
▼ 注4
http://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/pdf/report_01.pdf
▼ 注5
COP21:Conference of Parties to the United Nations Framework Convention on Climate Change 21、気候変動枠組条約第21回締約国会議
▼ 注6
地球温暖化対策計画http://www.env.go.jp/press/files/jp/102816.pdf