エネルギー革新戦略による新たな展開
─編集部:エネルギー革新戦略の3つのポイントがよく理解できました。ところで、前出の表1で示された、「エネルギー革新戦略による新たな展開」について、もう少し詳しく教えていただけますか。
吉川:表1に示した、IoTを活用したエネルギー産業の革新については、例えば「節電した電力量」を意味する「ネガワット」が適切に評価され取引されるようにしながら、蓄電池制御などを含む新技術を含めて新しいVPPビジネスの創出を行っていきます。このような新ビジネスについて、2030年度までには、先行的にネガワット取引が普及している米国と同水準(最大需要の6%)のネガワット活用を目指しています。
また、2016年度中に、再エネを利用して水素をつくる(これを「再生可能エネルギー由来」という)将来の水素社会に向けた課題・対応策をとりまとめていきます。今後、水素利用の飛躍的拡大が大きな課題となっています。
このため、まず、身近な家庭用のエネファームの低コスト化をはかりその普及を促進していきます。また、燃料電池自動車や水素ステーションについてもバランスのとれた導入をはかっていきたいと思っています。
これについては、2014年6月に策定した「水素・燃料電池戦略ロードマップ」を改訂(2016年3月)しました注9。まずは、現在ビジネス化されているものを着実に普及させるという観点から、家庭用のエネファームの低コスト化を図っていきます。また燃料電池自動車あるいは水素ステーションについてもバランスのとれた普及を図っていきたいと思っています。
例えば、改訂されたロードマップでは、表3に示すように、2030年までにエネファームを530万台、燃料電池自動車を80万台、水素ステーションは2025年までに320カ所の導入を予定しています。長期的には、水素発電とか海外の水素を利用したサプライチェーンについても、いくつかの技術を比較し、経済性を評価しながら開発と実証を進めていきます。
表3 水素・燃料電池戦略ロードマップ改訂のポイント
出所 http://www.meti.go.jp/press/2015/03/20160322009/20160322009-2.pdf
─編集部:2011年の3.11で大きく被災した福島の復興が急がれていますが、エネルギー革新戦略では、どのように位置づけられているのでしょうか。
吉川:福島の復興に向けて、エネルギー革新戦略では、「福島新エネ社会構想の実現」(未来の新エネ社会を先取りするモデル創出拠点)を目指して、2016年夏頃までに、構想をとりまとめ、直ちに取り組む計画です。「福島新エネ社会構想」は総理が3月の福島訪問の際に策定を打ち出したものです。
構想としては、2020年には、再エネから燃料電池自動車1万台相当の水素を製造することや、その製造された水素は福島県内だけでなく東京オリンピック・パラリンピックでも活用する計画です。また、福島県にある阿武隈山地や双葉エリアに建設が予定されている大量な風力発電群に対して、福島第1原発で発電した電気を送る際に使用していた変電所を活用するために送電線の整備を行うとともに、スマートコミュニティ構築の全県的な展開も計画しています。
─編集部:ありがとうございました。
▼ 注9
http://www.meti.go.jp/press/2015/03/20160322009/20160322009-2.pdf