W3Cにおける標準化策定の仕組みと議論グループ
W3Cは、インターネット関連の標準化を推進する会員コンソーシアムであり、規格を扱うワーキンググループ(WG)が策定するW3C勧告(W3C Recommendation)は、各テーマの最終批准プロセスだ。
W3Cには、W3C会員のみのメンバーで構成され勧告に向けた標準化を進めるためワーキンググループ (WG)、インタレストグループ(IG)、W3C会員と参加組織によるビジネスグループ(BG)、広く誰でも参加できるコミュニティグループ(CG)の4つのグループ形態がある。
WGはWeb標準の核となる議論を行い、IGではその基礎議論注1を仕様書のもとになる実現要望項目としてドラフトにまとめる。これをWGで議論し、最終的に勧告仕様書を策定する場合もある。BGは特定の産業におけるWeb技術の議論を取りまとめて最適なグループで議論を続ける。
一方、CGは標準化の具体的検討に入る前のテーマ抽出の段階であり、メンバー構成もW3C会員以外が自由に加わることが可能だ。標準化エリアのWGとIGは20年以上前からの仕組みだが、コミュニティで議論するCGやBGは、2011年にスタートした。また、WGとIGはW3Cプロセス注2で定義された手続きに基づいて管理されており、W3Cスタッフのサポートを得ることが可能だが、CGとBGは新しい枠組であり、別途、CGおよびBG専用のWebページ注3にて管理されている。
図1 多数のテーマで議論されているW3Cワーキンググループ(WG)とインタレストグループ(IG)
2016年中にWG設立を目指すWoT標準化に向けた活動
〔1〕WoTとは何か?
W3Cでは現在、WoT(Web of Things)の標準化に向けた議論が活発化している注4。
センサーやネットワーク技術の発展と、インダストリー4.0、OCF、OneM2Mなどの活発な動きでIoT(モノのインターネット)が注目されているが、IoTはそれぞれの業界やベンダごとに独自規格となっているため、サイロ化注5する傾向にあり、現在IoTプラットフォーム同士がネットワークではつながっていてもアプリケーションレベルで連携を取り合うことが困難な状態になっている。これをWeb技術で接続し相互に利用可能にしようというのがWoTだ。
「IoTのGUI(Graphical User Interface)は多くの場合、Webをユーザーインタフェースに用いている。Web技術をより深く活用することにより、既存のさまざまなIoTプラットフォームを横串で相互接続させることができるようになる」とWoT IGのメンバーであるW3C/慶應 標準化常務取締役・慶應義塾大学 政策・メディア研究科 特任准教授の芦村 和幸氏は語る。
IoTで利用される各種サーバ間の通信方法やデータ形式の違いを、WoTのプラットフォームで吸収することにより、スマートホームやスマートファクトリーの社会利用を加速できる(図2)。
図2 IoTの相互接続を可能にするWoT
出所 Getting Started with a W3C Web of Things Project(Matthias Kovatsch, Siemens)
WoT同士であれば、企業や業界を越えたエコシステムが構築しやすく、また、特定の企業や業界ごとのIoTシステムを個別開発する必要がなくなる。各企業が開発した独自技術に依存することで、将来的なシステムの乗り換えが困難になる恐れもない。
WoTは、Webサイト作成に広く用いられているオープンな技術群を採用しており、全技術者の8割といわれる多数のWeb技術者を開発要員として確保できるため、開発の加速も可能だ。
〔2〕WoTで連携した実験で仕様書レベルでの実効性を確認
W3CがWoTについて、CGで議論を開始したのは2013年1月。CGの参加者も240社を超え議論が盛り上がりを見せるなか、2014年6月に公開会議であるワークショップを開催し、より議論を進めるためのIGへの移行が検討され、その結果2015年1月に、ドイツ・シーメンス社のヨーク・ホイヤー(Jörg Heuer)氏を議長としてIGが設立された。
IGでは、毎週定例の電話会議およびメーリングリストやGitHubで議論を進めるとともに、3カ月に一度程度のF2F会議(物理的に集まっての会議)を行ってきた。
また、次のような技術テーマごとに、タスクフォースと呼ばれる10名程度のサブグループをつくり、仕様書のドラフト作成に向けた具体的な議論を進めてきた。
- API(Application Programing Interface)&プロトコル
- Thing Description(「モノ」の特徴や機能に関する記述)
- ディスカバリー(ネットワーク上の機器発見)
- セキュリティ&プライバシー
「プラグフェスト注6は、F2F会議を行う際に、開催している接続性検証のためのデモのことであり、各社が開発したデモアプリをもち寄り、WoTの仕組みを使って連携させる実験を行ったうえで、仕様書案の妥当性検証と問題の洗い出しを行っている。たとえば、1月のフランス・ニースでの会議では、ヨーロッパメーカー製のGUIソフトでニースから日本国内にある国産家電メーカーのデバイスを動かし、ビデオチャットで動作を確認するというデモを行っている」(芦村氏)
現在、WoT IGの参加数は73団体、188名で、設立から1年半の議論を経て、2016年中のWG立ち上げを目指して活動を進めている。
▼ 注1
ユースケース(応用事例)、リクワイアメント(技術的要求項目)、ギャップ分析(技術的要求と既存標準との差異分析)等の基礎議論。
▼ 注2
W3Cプロセス:http://www.w3.org/2015/Process-20150901/を参照。
▼ 注3
https://www.w3.org/community/
▼ 注4
https://www.w3.org/WoT/IG/
▼ 注5
サイロ化:サイロとは飼料や穀物の貯蔵庫のことで、「窓がなく周囲が見えない」という意味がある。そこから転じて、システムが外部と連携できずに孤立している様を表す。
▼ 注6
プラグフェスト:PlugFest。共通規格を展開しようとしている複数メーカーが、他社との相互運用性を確実にさせるための技術イベント。