ネガワットが注目される7つの背景
〔1〕スマートグリッドと電力システム改革
なぜ今、日本でネガワットが注目されるのだろうか?
3.11(2011年3月11日)の東日本大震災が発生するまで、日本の電力システムは世界一停電の少ないシステムと言われていた。このため、当時、すでに国際的に進展していたスマートグリッド(次世代電力網)の構築については、積極的に取り組む状況ではなかった。しかし、東日本大震災では、日本の歴史上最大規模のマグニチュード9.0(最大震度7)の地震の発生と津波によって、東京電力・福島第一原子力発電所が爆発事故を引き起こしたことをはじめ、複数の発電所が停止したことによって電力供給が低下したため、以後、聞きなれない輪番停電注6や節電が実施されるようになった。
この3.11を契機に、従来の大規模・集中型の電力システム(大型火力発電や原子力発電など)がもつ課題が明らかとなり、日本でもスマートグリッドへの取り組みが活発化し、家庭へのスマートメーターの導入や設置なども行われるようになった。
また、政府(経済産業省)によって「次世代エネルギー・社会システム協議会」が設置され、平成23(2011)年度から平成26(2014)年度まで、横浜市(広域大都市型)、豊田市(戸別住宅型)、けいはんな市(住宅団地型)、北九州市(地方中核都市型)の全国4つの地域で、さまざまなパターンによる大規模なスマートコミュニティ実証事業が展開されるなどの取り組みも行われた注7。
一方、欧米を中心に電力市場における小売まで含めた電力自由化の流れに対応して、制度面から日本においても電力システム改革が積極的に行われ、2016年4月には電力小売全面自由化がスタートした。
日本における「スマートグリッド」と「電力システム改革」が同時進行する状況は、新しいビジネス機会を創出した。この結果、日本の企業だけでなく、日本よりも先行してスマートグリッドや電力自由化に取り組み、システム構築の経験や実績を積んできた海外企業も、日本市場に上陸し、次々に日本で関連ビジネスが展開されるようになった。
〔2〕「ネガワット・ビジネス」と環境の整備
日本における電力・エネルギー分野で興った新しい主な動きを整理すると、次のようになる。
(1)スマートグリッド(次世代電力網)の取り組み開始:
①電力の双方向化(電気事業者⇔需要家)、②通信の双方向化(電気事業者⇔需要家)などによる高効率な双方向の電力供給システムや新サービスの実現
(2)電力システム改革(3回にわたる電気事業法の改正)の実施注8
(3)FIT(固定価格買取制度)による再生可能エネルギーの普及・促進
・2030年に日本の再エネの比率を19〜20%へ
(4)分散電源(マイクログリッド、蓄電池、コジェネ、EV/PHVなど)の普及
(5)デマンドレスポンス(DR:Demand Response)と関連する通信規格の採用
・デマンドレスポンス(電力の需給調整)によってネガワット取引市場の実現へ
・国際標準規格OpenADR 2.0b注9とECHONET Lite注10の採用
(6)IoT技術の活用(例:分散電源の統合・制御などへの活用)
・国際的なIoT標準の策定、各種IoTコンソーシアム、日本で産学官が連携して「IoT推進コンソーシアム」を設立(2015年10月)などの動き
(7)VPP(Virtual Power Plant、仮想発電所)の実証開始(2016年7月)
・IoTによる分散電源の統合。政府内にERAB検討会(エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス検討会注11)を設置(2016年1月)
このような制度改革やシステム改革、技術的イノベーションなどが進展する中で、現実的に実現できる環境が整い始めたため、「ネガワット・ビジネス」が注目されるようになったのである。
▼ 注6
輪番停電(計画停電の1つの方法):全域を一斉に停電させるのではなく、電力会社がある区分地域ごとに電力供給を順次停止させたり、再開させたりすること。
▼ 注7
資源エネルギー庁「次世代エネルギー・社会システム実証事業〜総括と今後について〜」、平成28(2016)年6月7日、http://www.meti.go.jp/committee/summary/0004633/pdf/018_04_00.pdf
▼ 注8
本誌2015年11月号「特集パート1:改正電気事業法と電力供給システムの構成」の表1参照。
▼ 注9
OpenADR 2.0b:「IEC PAS 62746-10-1:2014」として国際標準化された、OpenADR 2.0bプロファイル規格。
PAS:Publicly Available Specications、公開仕様書
・https://webstore.iec.ch/publication/7570
・https://openadr.memberclicks.net/assets/PressReleases/iec%20approves%20openadr%20specification_japanese.pdf
▼ 注10
ECHONET Lite:ECHONET Lite仕様関連のIEC国際標準(IEC 62394:2013)、https://webstore.iec.ch/publication/6976
▼ 注11
ERAB検討会:http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment.html#energy_resource