[クローズアップ]

ネガワット/ネガワット取引とは?

― デマンドレスポンス(電力の需給調整)がビジネスを創る ―
2016/09/01
(木)
SmartGridニューズレター編集部

ネガワットとデマンドレスポンス

〔1〕デマンドレスポンス導入の背景

 前述したように、従来の電力システムは、電力会社から需要家へ電力の供給をいかに行うかという、一方通行的な取り組みが中心であった。しかし、東日本大震災を契機に、集中型電力システムがもつ課題が明らかとなり、双方向のデマンドレスポンスやネガワット取引の重要性が強く認識されるようになってきた。このため、経済産業省では、2016年に入り政策や方針を次々に発表している注12

 ここでは、「ネガワット取引に関するガイドライン」(改定案)を見ながら、その概要を簡単に紹介する。

 デマンドレスポンス(DR)とは、

(1)需要家(電力の消費者:一般家庭や工場など)側での電力消費を調整する(節電する:ネガワット)ように促す(需要パターンを変化させる)ことによって、

(2)電気事業者側の負荷を軽減し、最適な電力の需給バランス注13をとることである。例えば、電力消費のピーク時に冷房(エアコン)の設定温度を3℃上げてもらう(需要パターンを変化させる)など、需要家の電力消費の抑制を促すことなどである。

 この需要家側の需要パターンの変化には、

①「電力需要の削減」のパターン

②「電力需要の増加」のパターン

という2通りのパターンが考えられる。

①「電力需要の削減」の場合は、効果的にピークカット注14を行うことによって電力需給のひっ迫を解消にするとともに、非効率な火力発電の焚き増し(発電量を増やすこと)や、ピーク電源に対応するために発電所を新設することなどが不要になる。これによって、中長期的には発電容量を合理的な規模に維持することができると期待されている。

②「電力需要の増加」の場合は、再エネの導入・拡大に伴って、電力の供給過多状態が発生した際に、需要家に対して電力消費の増加を促す(例:「今の時間帯に電気自動車を充電すると電気料金が安くなりますよ」などの要請)ことで、電力系統(電力システム)の電圧や周波数など、電気の品質を安定化注15させる活用が考えられている。

〔2〕日本におけるDRの取り組み状況

(1)電気料金型のDR

 前述した需要家側の需要パターンのうち、日本では「需要削減」パターンのDRの取り組みが先行して行われている。これは、ピーク時間帯などに電気料金を変動させることによって電力の消費パターンを変化させる取り組みである。この電気料金型DRを日本で活用する場合、その可能性については、すでに社会実証「次世代エネルギー・社会システム実証事業」注16で行われており、ピーク時に最大で20%程度の需要削減が継続的に可能であることが確認された。

 このような取り組みと並行して、平成25(2013)年度の省エネ法改正注17を背景に、電気事業者各社からはさまざまな電気料金メニューが提供され、平成28(2016)年度の電力小売全面自由化に伴って、より効果が見込めるさまざまな電気料金メニューが広がり始めている。

(2)「電力需要の削減」から「ネガワット取引」へ

 「電力需要の削減」の取り組みの次の段階として、電気事業者やDRアグリゲータ注18(以下、アグリゲータ)と需要家の間の契約に基づいて、電気事業者などからの要請に応じて行う電力の需要削減の量(kWh)や容量(kW)を取引する取り組み、いわゆる「ネガワット取引」の活用が検討されている。

 ネガワット取引は、仮に契約した電気事業者などから要請のあった需要削減量を削減できなかった場合に、需要家やアグリケータにペナルティ(罰則)を課す、あるいは、アグリゲータが複数の需要家の需要削減量を最適に組み合わせることなどによって、比較的確実性の高い需要削減が可能となる。

 このネガワット取引については、前述した「次世代エネルギー技術実証事業」において、すでに一般送配電事業者やアグリゲータなどで需要削減に関するさまざまな社会実証が行われてきた。

 また、2015年度に開催された「ネガワット取引の経済性等に関する検討会」では、ネガワット取引の効果が試算され、経済性の観点からもネガワット取引に一定の意義があることが確認されている注19


▼ 注12
例えば、(1)ネガワット取引の経済性等に関する検討会 概要:2016年3月30日、(2)ネガワット(節電)取引市場の創設に向けて(中間取りまとめ):2016年7月1日、(3)ネガワット取引に関するガイドライン(改定案):2016年など。

▼ 注13
電力の需給バランス:同時同量のこと。通常、電力システム(系統)の電気は貯めておけないため、需要予測に基づいて、電力の需要と供給(需給)を絶えず(瞬時・瞬時に)一致させておくことが求められきたが、これを同時同量(実同時同量)と言う。しかし改正電気事業法によって、2016年4月からこれが緩和され、瞬時・瞬時ではなく、需要者の消費量の計画(需要予測)に基づいて同時同量(計画値同時同量)を「30分単位で達成すればよい」ことが規定された。

▼ 注14
ピークカット:電力需要が集中する時間帯の供給電力量を低く抑える(例:エアコンの冷房温度を3℃上げるなど)ことなど。

▼ 注15
電気の品質(例、電圧:100V、周波数:50Hzなど)が安定していないと、例えば、工場の機械が正常に動作しなかったり、停電の原因ともなる。

▼ 注16
社会実証:「次世代エネルギー・社会システム実証事業」〔平成23(2011)年度〜平成26(2014)年度〕、
http://www.nepc.or.jp/topics/2015/0330_1.html
http://www.meti.go.jp/committee/summary/0004633/pdf/018_03_00.pdf

▼ 注17
省エネ法改正:平成25年5月31日公布、
http://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/summary/pdf/140401_syouenehoukaisei.pdf

▼ 注18
・電気事業者:小売電気事業者および系統運用者をいう。
・DRアグリゲータ:複数の需要家(例:一般家庭)を束ねて、DRによる需要削減量を電気事業者と取引する事業者をいう。単に「アグリゲータ」ともいう(電気事業者がアグリゲータの場合もある)。

▼ 注19
経済産業省「ネガワット取引の経済性等に関する検討会 概要」、2016年3月30日、
http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment/energy_resource/pdf/002_04_00.pdf

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