[「日本卸電力取引所」の役割と課題]

新電力ベンチャー登場時代の「日本卸電力 取引所」の役割と課題 ≪第3回:最終回≫

─自由化で先行する欧米の電力取引所の最新動向─
2014/09/01
(月)
SmartGridニューズレター編集部

2. 欧米における卸電力市場の規制

次に、欧米における卸電力市場の規制を見てみよう。
欧米における卸電力市場の規制は、米国と欧州では次のように大きく異なっている。
 
〔1〕米国の場合
米国では、米国エネルギー省連邦エネルギー規制委員会(FERC)注5に、州と州にまたがる州際卸電力取引注6に関する規制権限が付与されているため、卸電力市場の設計はFERCの認可対象事項になっている。
ただし、米国では地域によっても異なり、
 (1)北東部地域などの送電系統運用者が設立した地域送電機関(RTO)注7が運営するエネルギー市場型
 (2)南東部地域などの相対取引市場型
の2つに大別される。
 米国の北東部地域などで設立されているRTOでは、1日前エネルギー市場、リアルタイムエネルギー市場およびアンシラリーサービス注8市場などの運営を通じて系統運用が実施されており、FERCはオーダー2000注9を通じてエネルギー市場の設計を規定している。
〔2〕欧州の場合
 一方、欧州では、卸電力取引の法的位置づけが国により異なっている。北欧で運営されている有名な国際卸電力市場「Nord Pool」(ノードプール。地域はノルウェー、スウェーデン、フィンランド、デンマーク等)では、ノルウェーのエネルギー事業法を根拠にしてスポット取引が運営されている注10
 また、フランスやドイツではスポット取引も金融取引と解釈されており、金融での取引所法に準拠する注11
 一方、欧州の27カ国が加盟しているEU(European Union、欧州連合)では、1990年代から域内自由経済の理念を電力市場にも拡大しようとする動きが始まっており、市場ルールの共通化への取り組みが開始されている。
 日本の卸電力市場は欧州に似たところがある。表1の通り、1日前市場については、ドイツには「EPEX Spot」、北欧には「Elspot」注12という市場が存在している。これらは日本における卸電力取引の制度設計の先行事例とされている。
 一方、米国には、地域によっていろいろなタイプの卸電力市場がある。表1に示す米国のPJMは、いわゆるプール型という制度、すなわち、発電した電力はすべてその卸電力取引所に投入する(プールする)仕組みになっている。したがって、相対取引は金融取引だけであり、小売事業者はプール市場を介して電源を調達する制度設計となっている。
 現在の日本の制度設計において参照されている欧州の場合、バランシンググループ(Balancing Group、以下BG)が一義的に需給一致の責任を負う。BGとは系統利用の主体で、当該BGに属する需要と発電を一致させる需給運用の単位である。日本の新電力はこれに該当し、一般電気事業者が発送分離した後の発電部門・小売部門もこれに該当する。
 ただし、BGに発電不調が生じると、ネットワーク全体でも需給ミスマッチが生じる可能性があるので、独立した系統運用者(ISO)が、ネットワーク全体の需給の観点から、BGに対して不足分の補給を行う。
 欧州型の制度であれば、現在の日本の電力会社の送配電部門を分離した後の発電部門や小売部門がBGというまとまった形で需給運用の主体となることが可能だが、米国のプール型になると、個々の発電所が個別の入札行動を取るようになるため、現在の日本の制度とは大きく異なる姿になる。

▼注5
FERC:Federal EnergyRegulatory Commission
 
▼注6
州際( しゅうさい) 卸電力取引:州と州にまたがる(Interstate)卸電力および送電サービスの取引。
 
▼注7
RTO:Regional Transmission Organization
 
▼注8
アンシラリーサービス:Ancillary Service、直訳すると「補助的なサービス」。アンシラリーとは、電力の周波数安定等の電力品質を維持する機能のことをいう。具体的には、送配電事業者が各事業者の発電設備からの電力を電力ネットワークに受け入れるにあたり、系統全体の電力の品質(周波数が50Hzになっているかどうかなど)を維持するために行うサービスのことで、発電事業者等はその対価としてアンシラリーサービス料を支払う。
 
▼注9
オーダー2000:Order No.2000、指令2000。FERC(Federal EnergyRegulatory Commission:米国エネルギー省連邦エネルギー規制委員会)が1999年12 月に発令した指令。ISO(Independent SystemOperator、独立系統運用機関)を補完するかたちでRTO(Regional TransmissionOrganization、地域送電機関)と呼ばれる広域系統運用機関を設立することを電気事業者に指令した。米国では、このISO/RTO が運営する卸電力市場のエリアが拡大・発展している。http://www.ferc.gov/legal/maj-ord-reg/landdocs/RM99-2A.pdf
 
▼注10
金融取引は、2010 年3 月にNASDAQ OMX CommoditiesがNord Pool の全株式を取得。ノルウェー金融委員会によって監督されている。
 
 
▼注12
Nord Poolの翌日物の電力取引を行う市場。当日の需給調整を目的としたバランシング市場はElbasと呼ばれる。
 
◆表1 出所
「卸電力取引所について」、日本卸電力取引所
関連記事
新刊情報
5G NR(新無線方式)と5Gコアを徹底解説! 本書は2018年9月に出版された『5G教科書』の続編です。5G NR(新無線方式)や5GC(コア・ネットワーク)などの5G技術とネットワークの進化、5...
攻撃者視点によるハッキング体験! 本書は、IoT機器の開発者や品質保証の担当者が、攻撃者の視点に立ってセキュリティ検証を実践するための手法を、事例とともに詳細に解説したものです。実際のサンプル機器に...
本書は、ブロックチェーン技術の電力・エネルギー分野での応用に焦点を当て、その基本的な概念から、世界と日本の応用事例(実証も含む)、法規制や標準化、ビジネスモデルまで、他書では解説されていないアプリケー...