[「日本卸電力取引所」の役割と課題]

新電力ベンチャー登場時代の「日本卸電力 取引所」の役割と課題 ≪第3回:最終回≫

─自由化で先行する欧米の電力取引所の最新動向─
2014/09/01
(月)
SmartGridニューズレター編集部

5. 米国(PJM)におけるリアルタイム市場の状況

 図4に、米国におけるPJM〔米国の地域送電機関(RTO)の1つ、表1参照〕のリアルタイム市場の状況を示す。図4から、かなり複雑な入札の仕組みになっていることがわかる。

PJMにおいては、各LSE注15は、1日前市場において想定される必要電力量の入札を行うが、実際の需要量の過不足分についてはリアルタイム市場で調整を行う。この価格形成プロセスに大きな役割を果たしているのが、地点別限界価格(LMP:Locational Marginal Price)と呼ばれる、地点ごとの価格指標である。LMPは市場価格であると同時に、PJM区域内の送電混雑料金を決定するために用いられる。「LMP($/kWh)=発電限界費用+送電混雑費用+限界損失費用」として算出され、送電制約が存在する場合は、地点間でLMPに差異が生じ、その差異については混雑料金として系統利用者から徴収される。
また、系統の安定運用については、自社の発電設備をもつ主要電気事業者の責任としたうえで、系統全体の需給バランス、周波数、電圧の維持などにかかわる系統運用費用は会計的に分離されており、送電線利用料金とは別に、アンシラリーサービス料金として系統利用者から回収される。オーダー888注16に規定されるアンシラリーサービスは、
  1. スケジューリング、給電指令
  2. 無効電力補償、電圧制御
  3. 周波数制御
  4. エネルギーインバランス
  5. 瞬動予備力
  6. 運転予備力

であり、インバランス料金もアンシラリーサービス料金の1つとして位置付けられている。


◆図4 出所
〔出所 「卸電力取引所について」、日本卸電力取引所〕
 
▼注15
LSE:Load Serving Entity、PJM 区域内で最終需要家に電力供給を行う事業者。
 
 
▼注16
オーダー888( 指令888):米国における電気事業規制緩和の動きの1 つで、送電線の開放を義務化(1996 年4 月)に関する指令。この他、オーダー2000(指令2000):地域送電機関(RTO)設立に関する規定(1999 年12 月)などがある。
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