なぜ「電気の質」が求められるのか:災害、新電力や再エネの増大
〔1〕電力システム改革に伴う電力の自由化
6年前の平成23(2011)年3月11日に発生した東日本大震災では、地震(マグニチュード9.0、最大震度7)と津波による電力設備被害によって、東北・関東において約870万戸におよぶ大規模な停電が発生した。さらに、東京電力管内では、2011年3月14日から28日にかけて計画停電を余儀なくされた。また、平成28(2016)年4月の熊本地震(マグニチュード7.3、最大震度7)では、約48万戸が停電の被害を受けた。このように、自然災害に伴う大規模停電が相次いで発生しているなか、電気の安定供給についての関心が高まっている。さらに、現在から将来にわたる次のような要因も挙げられている。
表1 スイッチング支援システムの利用状況(〜12月31日24時※1)
出所 2017年1月13日、電力広域的運営推進機関、https://www.occto.or.jp/oshirase/hoka/files/20170113_swsys_riyoujyoukyou.pdf、https://www.occto.or.jp/oshirase/hoka/2016-swsys-icihran.html
(1)電力システム改革が推進されるなか、従来のような10電力会社による地域独占ではなく、電力小売全面自由化に伴って、新電力事業者が大きく増加しその登録小売電気事業者は、374事業者にも上っている(2017年1月17日現在)。
(2)系統電力(電力システム)の電圧や周波数などに影響を与える再生可能エネルギーの導入は、固定価格買取制度(FIT)の導入(2012年)以降、急速に拡大している(図1)。
図1 再生可能エネルギー等(大規模水力除く)による設備容量の推移
出所 経済産業省/資源エネルギー庁、「再生可能エネルギー固定価格買取制度ガイドブック〔2016(平成28)年度版〕」、2016年3月、http://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/data/kaitori/2016_fit.pdf
(3)2016年度から小売全面自由化、ライセンス制注2、計画値同時同量制度が始まり、平成32(2020)年度には発送電分離が予定されている。
周知のように、電力システムは経済活動だけでなく、人命にも影響を与える重要な社会インフラの1つであるため、電力事業を取り巻く状況がこのように大幅に変化している中においても、安定供給の確保は不可欠である。OCCTOは、供給信頼性の確保のために、電気の供給信頼度についての状況を把握することも業務の1つとなっているため、‘電気の質’に関する実績を継続的に把握し、供給の信頼性が保たれているかを注視している。
今回の報告書では、‘電気の質’を表す具体的な指標として、周波数、電圧および停電についての実績を取りまとめ、その評価が行われた。
〔2〕周波数/電圧の範囲と停電実績
具体的には、平成27(2015)年度までの過去数年間の電力の供給区域別のデータを用いて、周波数(50/60Hz)および電圧(100/200V)が定められた目標範囲に収まっているかどうか、停電実績が悪化していないかどうかなどについて、実績を取りまとめて評価・分析されている。
これらに加えて停電実績については、各国の歴史的状況などによって、必ずしもデータ収集の条件等が同一ではないものの、参考として欧州や米国の代表的な地域(例:ニューヨーク州、カリフォルニア州、ペンシルベニア州)との実績の国際比較も行われている。
報告書において集計した実績および評価・分析は、電力自由化後の日本の電力事業などの在り方について、おおいに参考すべき内容となっている。
▼ 注1
OCCTO:Organization for Cross-regional Coordination of Transmission Operators, JAPAN、電力広域的運営推進機関(電力広域機関)。3段階に分けて行われている電力システム改革の第1段階として、電源の広域的な活用に必要な送配電網の整備を進めるとともに、全国規模で平常時・緊急時の需給調整機能を強化することを目的に、平成27(2015)年4月1日、同機関が設立された。
▼ 注2
ライセンス制:電気事業を行う者が、OCCTOへ加入することや、経済産業大臣へ登録申請書を提出し、審査を受ける制度。