[電気通信大学 教授 新 誠一 vs. 名古屋工業大学 大学院 教授 渡辺 研司]

日本と世界の重要インフラにおけるサイバーセキュリティへの挑戦

― 欧米は軍が主体、日本は民間主体の取り組み ―
2017/03/06
(月)
中尾真二 テクニカルライター

日本の未来:制御システムのサイバーセキュリティ対策

─編集部:最後に日本の未来についてお聞かせください。制御システムのサイバーセキュリティ対策で、グローバルリーダーになるにはどうすればいいでしょうか。

〔1〕日本はすでにグローバルリーダー

:私が理事長を務めているCSSCには、2つのミッションがあります。

 1つは国内に安心・安全を届けるということ。もう1つは、海外にも同じように安心・安全を提供することです。冒頭に述べたように、日本のインフラは非常に品質が高く、保守・運用の技術、プロセス、セキュリティの技術なども決して低いわけではありません。

 CSSCでは、宮城県多賀城市のテストベッド注7を使って日本のインフラ設備、技術の認証(IEC 62243注8)を行っています。

 欧米の場合、重要インフラセキュリティは国防や軍事にかかわるため、技術の詳細が表にでてこない傾向があります。民間主導の日本は、この点でも国際標準に準拠した設備や技術を各国に展開できる強みがあります。多賀城市のテストベッドには、各国から大臣クラスの視察を含む1,000人以上が訪れ、世界から、その取り組みが注目されています。

 この意味では、日本はグローバルリーダーだといえると思います。あとは、これを続けていくことですね。

〔2〕日本のプレゼンスをもっと上げていく

渡辺:日本の設備は品質が高いがセキュアではない(大きい被害に弱い)。これに対して欧米では、品質はそこそこだが、セキュリティはパニック対応も含めて進んでいます。さきほどの軍事・非軍事という違いもありますが、日本と欧米で品質、セキュリティ、インテリジェンスなどお互い不得手な分野で補完しあうことで、グローバルでの日本のプレゼンスをもっと上げていく余地はあると思っています。

◎Profile

新 誠一(しん せいいち)

新 誠一(しん せいいち)

電気通信大学 情報理工学研究科 機械知能システム学専攻 教授

1980年東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。1987年工学博士(東京大学)。1988年筑波大学電子・情報工学系助教授。1992年東京大学工学部助教授。2001年同大学情報理工学系研究科助教授。2006年電気通信大学教授。
計測自動制御学会論文賞竹田賞、技術賞、電気学会優秀技術活動賞技術報告賞、情報セキュリティ大学院大学情報セキュリティ文化賞など受賞。計測自動制御学会フェロー、元会長。技術研究組合制御システムセキュリティセンター 理事長、他。

渡辺 研司(わたなべ けんじ)

渡辺 研司(わたなべ けんじ)

名古屋工業大学 大学院 社会工学専攻 教授

1986年京都大学卒業。工学博士、MBA。
同年、富士銀行入行、国際事務企画、米国駐在(ストラクチャード・ファイナンス)、システム開発・企画、他。1997年プライスウォーターハウスクーパースに移籍、国内外企業向け金融ビジネスに関わるコンサルティング。2003年長岡技術科学大学准教授(経営情報系)。2010年4月より現職。
専門はリスクマネジメント、事業継続マネジメント(BCM)、重要インフラ防護。内閣重要インフラ専門調査会 会長、国土交通省審議会運輸安全確保部会 専門委員、内閣府事業継続計画策定促進に関する検討会 委員、他。


▼ 注7
テスト用の模擬プラント。

▼ 注8
IEC 62243:Artificial Intelligence Exchange and Service Tie to All Test Environments (AI-ESTATE)、「検査環境と連携した電子機器」という意味。国内では「制御システムセキュリティ標準」と呼ばれている。

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