[特別レポート]

急成長するオーストリアのバイオマス発電ビジネス

― 「住民が投資し」「発電所をつくり」「電気を買う」自産自消の循環モデル ―
2017/04/10
(月)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

最大のモチベーションはパリ協定の実現へ

表4 分散エネルギーへのモチベーション

表4 分散エネルギーへのモチベーション

出所 岡村久和、「スマートシティ最新情報」、2017年2月23日

 オーストリアでは、なぜ、このような再エネ(バイオマス)による分散電源に熱心なのだろうか。その主な理由を表4に示す。

 まず、モチベーションの第1番目は、2015年の歴史的なパリ協定の実現に協力したい、という思いである。

 第2番目は、原発由来のフランスからの輸入電力に頼らないようにすることである。フランスからの電力が、場合によってはオーストリアの消費電力の4割ほどに達することもあるので、これを止めたいという願いがある。自分たち(オーストリア)は原発をもっていないと言いながらも、フランスは7.4%もの原発由来の電力を他国に供給しているため、7.4%の発電のうちの何%かはオーストリアに輸入されてきているのが実情である。

 第3番目は、化石燃料の不安定なコストへの不安、為替の変動が大きい。石油の場合は中東から供給される(一部はロシア、北海油田から)が、その不安定さは価格だけではなく政治的なものもあり、突然石油の供給が止まったりすることも予想される。

 第4番目、第5番目も大きい理由の1つかと思われる。地元で伐採した木で(ボイラーで)エネルギーをつくるのは、何百年と受け継がれてきた生活や歴史の重みがある。自分でつくった薪をくべて暖まるという感覚がベースにある。

 最後の6番目は、行政区に頼らない地域の徹底した協力による自産自消の浸透である(自分たちで投資して、発電し自分たちで消費する)。

 この背景には、オーストリアは連邦政府(Federal Government)の形態で、日本は中央政府(Central Government)の形態であるという社会性の違いがあるといえよう。連邦政府下の行政区は、あまり強制力をもっていないため、比較的自由度があることも大きな要因である。

*    *    *

 以上、オーストリアにおけるバイオマス(再エネ)による分散電源の新しい動きを見てきた。そこには、住民が出資してバイオマス発電所をつくり、自分たちで燃料を売り、自分たちで電気を買う、というエネルギーの循環がダイナミックに動いている。

 さらに、バイオマスによるクリーンな分散電源のシステムを輸出ビジネスにまで発展させている。そして何よりも、パリ協定に基づく地球温暖化対策に向けた地球に優しいエネルギー環境の実現に向けて、積極的な取り組みが推進されている。

 日本においても、このようなエネルギー先進国から学ぶべきことが多い。

◎取材協力

岡村 久和(おかむら ひさかず)氏

亜細亜大学 都市創造学部 都市創造学科 教授

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