[特別レポート]

急成長するオーストリアのバイオマス発電ビジネス

― 「住民が投資し」「発電所をつくり」「電気を買う」自産自消の循環モデル ―
2017/04/10
(月)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

地元企業6社でつくった地域バイオマス熱供給プラントの特徴

表3 地元企業6社でつくった地域バイオマス熱供給プラントのプロフィール

表3 地元企業6社でつくった地域バイオマス熱供給プラントのプロフィール

出所 岡村久和、「スマートシティ最新情報」、2017年2月23日

〔1〕地域バイオマス熱供給プラント

 写真7は、地元の企業6社を中心につくった600kWhの発電容量をもつ地域バイオマス熱供給プラントの外観である。表3にそのプロフィールを示す。

写真7 地元の企業6社を中心につくった地域バイオマス熱供給プラントの外観

写真7 地元の企業6社を中心につくった地域バイオマス熱供給プラントの外観

出所 岡村久和氏撮影

写真8 使用されているソフトウェアの画面例

写真8 使用されているソフトウェアの画面例

出所 岡村久和氏撮影

 配管の長さは700mで、その配管の中に熱を通して利用する。

 湯を地中管で700mも送り出すのは相当な力(電力の消費量が大)が必要なため、空気(熱風)と推測される。このプラントは築2年で、共同会社が運行しており、ソフトウェアを利用して、どのように発電していて、どこに送り出しているかなどを、すべて画面上で管理できる。このソフトウェアによる表示画面例を写真8に示す。また、写真9は、このガス化炉プラントとそのコントローラ(制御装置)である。

写真9 ガス化炉プラント(右)とそのコントローラ(制御装置。左)

写真9 ガス化炉プラント(右)とそのコントローラ(制御装置。左)

出所 岡村久和氏撮影

 現在、オーストリアの地域分散発電所に関しては、発電所内の発電状況の管理ソフトウェアなど、ソフトウェアビジネスの市場競争が盛んになってきており、分散発電所の設立に伴ってハイテク産業が興ってきている。

〔2〕一番人気は100〜200kWh程度のプラント

 ここまでの例では、600kWhのプラントを紹介したが、オーストリアにおける人気のプラントの大きさは2年前に比べて大幅に小型化されていて、現在は100〜200kWh程度のプラントが市場に出回り、一番人気となっている。なお、日本の市場では、3〜4MWhがメインとなっている。

〔3〕CO2はプラス・マイナス・ゼロへ

 この地域においても、6企業が出資し、各企業が燃料を供給し、発電された電気は自社で使う、という循環になっている。

 これを推進している1番の理由は地球温暖化対策へ向けたモチベーションであり、エリア内で木を切って使用したら、また木を植える。このことによって、CO2は「±0(ゼロ)」という算出をしている。

 2年前は、オーストリアにおける発電所のカバー範囲はもう少し広く、1㎞の範囲あるいは村の単位、場合によっては、ウィーン市立発電所などは100㎞の範囲であった。直径100㎞まで広げると、ハンガリーまで電力の供給範囲が広がるので、ハンガリーの木材も含めて発電する、ということを行っていた。

 それが現在では、カバー範囲はどんどん小さくなり、半径500〜700m程度の範囲の地域分散発電所となっている。

 なお、小型化された分散発電設備は導入されているが、互いに完全に独立しており、発電所同士の相互融通は行われていない。それぞれの発電所が完全に独立した運営となっている。

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