[特別レポート]

急成長するオーストリアのバイオマス発電ビジネス

― 「住民が投資し」「発電所をつくり」「電気を買う」自産自消の循環モデル ―
2017/04/10
(月)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

事例に見るバイオマス発電ビジネス

〔1〕バイオマス発電会社「EVM」の例

 写真1は、オーストリアの首都ウィーンの郊外にあるバイオマス発電会社「EVM(Energie Versorgung Margarethen GmbH)」のガスタンクの群れであり、表1に「EVM」のプロフィールを示す。

写真1 EVM社のバイオマス発電所の外観(ガスタンクの群れ)

写真1 EVM社のバイオマス発電所の外観(ガスタンクの群れ)

出所 https://evm-bioenergie.jimdo.com/deutsch/aufschlusstechnik/biogastraktoren/

表1 オーストリアのバイオマス発電会社「EVM」のプロフィール

表1 オーストリアのバイオマス発電会社「EVM」のプロフィール

出所 岡村久和、「スマートシティ最新情報」、2017年2月23日

写真2 EVMプラントの現地を視察する岡村教授

写真2 EVMプラントの現地を視察する岡村教授

出所 岡村久和氏提供

 このEVMは、自治体とは関係なく、近隣60軒の農家(半径500〜700m程度の範囲)が集まり、出資してつくったバイオマス発電会社である。同社は、農家から出るゴミや野菜くず、トウモロコシ、腐ったわら、木質チップなどを1日120トンほど購入し、それをもとにガス炉でガスを生成して、熱や電気をつくる。できた熱や電気(現在出力1.1MW、将来3MW)を、その地域の各農家が購入して利用する、という循環モデルである。

 現地を視察した岡村教授(写真2)からは、玉ねぎ(写真3)の腐った強烈な匂いなどもあるので、日本で受け入れられるかどうか課題もある、という指摘もあった。

写真3 EVMプラントの燃料となる悪臭を放つ玉ねぎ(左)と腐ったわらの山(右)

写真3 EVMプラントの燃料となる悪臭を放つ玉ねぎ(左)と腐ったわらの山(右)

出所 岡村久和氏撮影

 写真4に、EVMで完成したガス化炉の一部設備を示す。

写真4 EVMにおいて完成したガス化炉の一部設備

写真4 EVMにおいて完成したガス化炉の一部設備

出所 岡村久和氏撮影

〔2〕リハビリ施設の運営企業と地元のコラボレーションの例

 写真5は、リハビリテーション施設の外観である。日本でいう老人健康保険施設のようなものである。

 これを運営する会社(一般企業)があり、その会社は木を集めるために、木こりと契約を結んでいる。契約木こりが定期的に運んでくる木を燃やしてガス化して電気と熱をつくり、リハビリ施設に供給するというモデルである。

写真5 「契約木こり」も活躍するリハビリ施設の外観

写真5 「契約木こり」も活躍するリハビリ施設の外観

出所 岡村久和氏撮影

 この施設の場合も、先に需要家が決まっているという点では、前出のEVMと同様である。

〔3〕ポリテクニック社の例

 オーストリア・バイセンバーグに本社を置き、日本にも進出しているポリテクニック(Polytechnik)社は、表2に示すように、もともとガス炉で有名な会社である。創業者がパン屋で、パン焼き器がよくできていて評判がよかったことから、依頼されてガス化炉をつくった。これがまた評判を呼んだため、ガス化炉を商売にしてしまったという。創業者は現在も会長を務めている。

表2 ポリテクニック(Polytechnik)社のプロフィール

表2 ポリテクニック(Polytechnik)社のプロフィール

※CHP:Combined Heat and Power、熱源供給システム。エネルギー供給システムの1つで、熱と電力を同時に供給するシステムのこと。コージェネレーション(Cogeneration)とも言われる。
出所 岡村久和、「スマートシティ最新情報」、2017年2月23日

 ポリテクニック社のガス化炉は、最初から輸出を前提にしているため、プラントのように一体型ではなく、モジュールに細分化し現地で組み立てられるように設計されている。このためトラックによる運搬が容易で、コンテナ船への積荷も容易にできるという特徴をもっている。

 同社の輸出を前提にした木質バイオマス発電プラントの構造は、日本のプラントと大きく異なっている。その価格は、熱1MW当たり約2億円程度である。

〔4〕ヘルツ&ビンダー(HERZ&Binder)社の例

 写真6に、ヘルツ&ビンダー社のバイオマス発電プラントの外観を示す。

写真6 ヘルツ&ビンダー社のバイオマス発電プラントの外観

写真6 ヘルツ&ビンダー社のバイオマス発電プラントの外観

出所 岡村久和、「スマートシティ最新情報」、2017年2月23日
(出典 http://www.herz-energie.at/en/products/wood-chip-pellet-boiler/herz-biofire-500-1500/

 図3は、ヘルツ&ビンダー(HERZ&Binder)社(HERZ社がBinder社を買収)のバイオマス発電プラントの立体図である。その発電容量は10MWhと再エネ発電では巨大なもので、日本円にすると40億円強程度の価格である。

図3 ヘルツ&ビンダー社のバイオマス発電プラントの立体図

図3 ヘルツ&ビンダー社のバイオマス発電プラントの立体図

出所 岡村久和、「スマートシティ最新情報」、2017年2月23日
(出典 http://www.binder-gmbh.at/en/competence-in-technology/combustion-systems/、 )

 同社のプラントは、40フィート(12m)のコンテナ注1 21個に分けて、船で運ぶことが可能となっている。すなわち、バイオマスによる分散エネルギー(再エネ発電機)を容易に輸出できるようになっている。


▼ 注1
40フィート・コンテナの外形寸法:1個の大きさが、長さ12.19m、奥行2.44m、高さ/2.59mのコンテナ。

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