パリ協定の実現が世界共通の課題
〔1〕求められる電力消費者を考慮した設計
さらに自然エネルギー財団は、日本において再エネによる電力の発電から消費までの流れを追って明確にする仕組みが整っていない、という問題を挙げている。欧州や米国で一般的となった「グリーン電力」には、発電事業者、送電事業者、配電事業者、中間取引事業者、小売事業者を経由して消費者に再エネによる電力が届くまでの経路を追跡する仕組みがある。
一方、日本で流通している「グリーン電力証書」の仕組みは、企業の自主性に依存しているうえに、他国に比べて高価だ。また、日本のグリーン電力証書では、再エネの固定価格買取制度(FIT)による電力が対象外となっているので、広く普及することは望めない。
現在、政府が発足に向けて動いている「非化石価値取引市場」は、「非化石電力である」という事実を追跡して明らかにする役目は果たせる可能性がある。FIT電力の「非化石電力である」という事実も売買対象になる。
〔2〕企業が電力消費量の50%を占める
パリ協定が発効し、世界各国は温室効果ガス(CO2)の削減目標を設定して、削減に向かって動かざるを得なくなっている。そして、世界の電力消費量のうち企業が消費する電力は、およそ半分(50%)にもなる。
国が削減目標を設定しても、企業が動かなければ目標達成は困難である。再エネによる電力が日本でも安価に入手できるようになれば、導入する企業は一気に増加すると見られている。
自然エネルギー財団「3つ提案」の内容
〔1〕1つ目の提案
自然エネルギー財団が今回公開した提案の1つ目は、企業が再エネに投資し、活用していることを社会にアピールする機会をつくるものである。再エネによる電力が火力発電による電力よりも安くなれば、企業経営の面から見ても再エネを選ぶことになろう。
〔2〕2つ目の提案
(1)再エネの価値をはっきりさせる
2つ目の提案は、再エネの価値をはっきりさせて、政府に適切な導入施策を打つように促すものと考えられる。前述した改正法が小売電気事業者に課している、「調達する電力のうち非化石電源を2030年度までに44%以上とする」という目標は、資源エネルギー庁が2015年7月にまとめた「長期エネルギー需給見通し」のデータを基にしている。
この「見通し」では、図2に示すように、2030年の日本の電源構成を石油3%程度、石炭26%程度、液化天然ガス27%程度、原子力20〜22%程度、再エネが22〜24%程度としている。このうち、政府が非化石電力と認めているのは再エネと原子力で、両方の予測値を加算すると、ちょうど44%程度となっている。
図2 政府が想定する2030年の電源構成
出所 http://www.meti.go.jp/press/2015/07/20150716004/20150716004_2.pdf
(2)再エネと原子力の価値の違い
再エネと原子力を区別せずに同じ非化石電力としてしまうと、再エネの価値が見えなくなってしまう。確かに、どちらも温室効果ガスを発生させない電源だが、その特徴、価値は大きく異なる。原子力は莫大な量の電力を発電し続けられる「ベースロード電源」である。温室効果ガスの発生を抑制しながら安定した発電量を維持するうえで、一定の役割を果たすが、課題もある。
再エネは、地熱や一般水力といった例外を除くと、気候や時間によって出力が大きく変動する扱いにくい電源であるが、他国から燃料を輸入することなく発電できる「純国産エネルギー」である。これは日本のエネルギー自給率向上にとっては非常に大きな価値である。
〔3〕3つ目の提案
3つ目の提案は、さまざまな種類がある再エネのうち、コスト効率が優れるものをはっきりさせることを狙ったものと考えられる。コスト効率が優れる方式がはっきりすれば、再エネを利用する企業も最も優れた方式を選択する。それをアピールすることによって企業の社会的評価も変わることになろう。
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今回の自然エネルギー財団からの3つの提案が非化石価値取引市場を活性化させ、日本の電力市場で再エネ由来の電力が飛躍的に普及することを期待したい。