スマートシティにおけるKNXの活用範囲
江崎:ここで、スマートシティの話に戻りましょう。先ほど太陽光発電などの再生可能エネルギーを取り上げ、発電について少しお話されましたが、KNXは需要家サイドだけではなく、発電や送電についての取り組みもしているのでしょうか?
Lux:私たちには、発電に関する機器やサービスはありませんが、それを制御するためのものはありますので、電力ネットワーク内の電力に関する情報を伝えることによって、発電をより簡単にするための知識はもっています。
例えば蓄電池です。それは車載の蓄電池でも構いませんし、家庭内にある蓄電池でも構いません。例えば充電されている蓄電池があるが、休日のため留守にしている家があるとします。その家庭の蓄電池内の電気は、休日出勤し作業しているどこかのビルで使用することができますが、そのためには他のビルに蓄電されている蓄電池の情報が共有されていなければなりません。 KNXを使えば、このような情報の共有ができるようになります。
江崎:つまりKNXは、個々の住宅や集合住宅の中で、蓄電池や再生可能エネルギーを含むさまざまなものを扱うことに取り組んでいるのですね。
現時点では、電力会社はKNXのターゲットに入っていないのですか。
Lux:まだ、入っていません。なぜなら、電力会社には電力会社のビジネスがあり、KNXが取り組むものとは異なるからです。
電力ビジネス環境の変化とKNXの活用
江崎:欧州でもスマートシティについていろいろな議論があり、なかでもユーティリティ(電気・ガス・水道)のビジネス環境の変化についての議論があります。ご存じのように、日本では電力供給や発電の仕組みが変わりつつあります。
Lux:たしかドイツでは、全発電量の22%が太陽光発電によるものです。この数字は非常に規模が大きいと思っています。
ドイツでは再生可能エネルギーを活用していますが、それは何よりもドイツ政府が再生可能エネルギー活用を増やすためのさまざまな取り組みを行っているからです。すべての人に資金面での補助がなされました。しかし、多くの再生可能エネルギーによる電力が、実際には利用されていない場合があるということは誰も知りません。
これまではエネルギーとは電力会社から与えられるものでしたが、自分たちが発電したエネルギーを自分で管理をしなくてはならなくなったのです。実際に使う以上のエネルギーがある場合もあれば、足りない場合もあります。そのため、スマートグリッドが導入されたのです。
江崎:ドイツでは、3.11の原子力発電所の事故の後、政府が太陽光発電の導入を推奨し、加速させたのではなかったでしょうか。
Lux:そうです。日本での原発事故の後に、2022年までに原子力発電所を廃止するという期限を設けています注6。
江崎:それでドイツでは、再生可能エネルギーが発電源の1つとして利用されるようになったということですね。
そうするとドイツ政府としての現在の目標は、需要家側での効率的な電力の制御を目指しているということでしょうか。
Lux:発電側と需要側の両方です。先程述べたように、再生可能エネルギーは常に発電できる電源ではないため、太陽光発電によるエネルギー利用の制御ができません。したがって、エネルギー消費を増やしたい時は料金を下げ、消費を減らしたい時はより高い料金を通知するという取り組みを行っているのです。
しかし今後、より多くの再生可能エネルギー源が使われるようになるので、この方法は来年(2015年)には通用しないかもしれません。そこで、KNXを使っての制御を考えており、これが現在の私たちが重点的に取り組んでいることです。
江崎:複数の施設の電力の需要をKNXを使って制御することによって、変動幅が大きい再生可能エネルギーの制御をしていこうとしているのですね。
Lux:そうです、複数の施設ですね。
江崎:とても興味深いことです。日本がその経験から学ぶことが大いにありそうです。Lux:喜んで、そういった経験を共有したいと思っています。
▼ 注6
2011年3月11日以降の福島第一原子力発電所の事故を受け、ドイツでは脱原発の世論が強まり、ドイツ政府は、2022年末までに脱原発を完了するための「第13次原子力法改正法」を同年6月6日に閣議決定した。法案は、同年6月30日に連邦議会、7月8日に連邦参議院を通過した。さらに、再生可能エネルギーの比率を2020年に35%、2015年に80%へと目標を引き上げている。
翻訳者Profile
新井 宏征(あらい ひろゆき)
株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役社長。
SAPジャパン、情報通信総合研究所を経て、2013年よりプロダクトマネジメントに特化したコンサルティング会社である株式会社スタイリッシュ・アイデアを設立。ICT分野におけるリサーチから得た最新の知見に基づき、企業に対するプロダクトマネジメント制度の導入や新規事業開発、製品開発の支援を行っている。