[特集]

スマートグリッド標準「KNX」とIEEE 1888」のスマートシティへの応用

KNX 協会会長 H. Lux(ハインツ・ラックス)氏 v.s.東京大学大学院 教授 江崎浩氏
2014/10/01
(水)

KNXやIEEE 1888の省エネ以外の活用

〔1〕省エネ以外の新ビジネスの可能性

江崎:ここまで省エネについてお話されていましたが、それがKNXの唯一の目標でしょうか。

Lux:省エネは当初からの目標でしたし、現在でも目標です。

江崎:なぜ私がこのような質問をしているかというと、私の経験から言えば、省エネだけではビジネスの現場に導入していくのはとても難しいと思っているからです。エネルギーコストが高くない国では特にです。省エネにどれだけのコストをかけ、どれだけコスト削減できるかと考えると、難しい場合があるのです。そこでGUTPでは、省エネはスマート機器を導入する目的の重要な1つとして考えていますが、その他の目的、例えば生産性の向上や生活の質の向上などといったものを考えていこうとしています。

 例えば、生産性の向上などは新しいビジネスになると思っています。これが私たちのビジョンであり、目標です。例えば、すでに省エネに関する取り組みは行われていますが、そうすると、「誰の」あるいは「どの部門の」運用の仕方がよくないかがわかるのではないでしょうか。

Lux:そうですね。しかし、それはビルコントロールの範疇ではないと思っていますし、それは別のシステムで取り組むこともできます。KNXの取り組みを始めた1990年は、省エネの取り組みはどの国でも、ましてやビルのオーナーでさえも重視していませんでした。

 しかし、現在では、セキュリティについても話題にのぼり、KNXでより安全性の高い環境を求めている人もいます。また快適性を求めている人もいます。これもKNXで実現できることです。しかし、ビル内のさまざまな手続きや管理を制御するためには、他のシステムと組み合わせたほうがよいと思っています。

江崎:IEEE 1888に携わっているメンバーも、最初は省エネの取り組みを行っていました。しかし次第に、オープンデータやオープンシステムを使った運用は省エネだけではなく、その他の目的のためにも使えるのではないかと考えるようになりました。

〔2〕スマートメーターのデータを元に生産性を改善

Lux:例えば、誰に対してサービスを提供するのですか?

江崎:私たちのメンバー企業や私自身、省エネ以外に使っている経験があります。面白いものとしては、自社工場をもっているある企業の例があります。彼らは工場の生産性を改善するために、工場内のすべての機械にスマートメーターを取り付けました。

Lux:なるほど。

江崎:そうすると、スマートメーターのデータを元に誰がどのように作業をしているのかがわかるようになったり、またどの部門がうまくデータを活用しているのかということもわかったりしてきました。そのうえで、彼らはこれらのデータを元に、従業員の作業効率を改善し、最終的には、工場の省エネが実現できたのです。これは面白い取り組みだと思います。

Lux:既存のデータを元に作業手順を改善したということですね。

江崎:そうです。つまり、省エネを実現するためのシステムがあり、そこから得られた情報を活用すれば、企業の生産性を改善するのにも役立つのです。

 さらに興味深いのは、彼らがセキュリティの観点からそのようなデータを使っているということです。例えば、パソコンでタイピングをすることがメインの仕事があるとします。人は個々に入力方法やキーボードのタッチについての癖がありますので、それを元に誰かを特定することができます。

〔3〕共通点が多いKNXとIEEE 1888

Lux:たしかにそれは可能です。しかし、私個人としてはそこまではしないと思っています。というのも、もしエネルギー消費と人の作業をイコールだと考えるとして、たしかに人の管理のためにもビル管理システムを利用することはできますが、それは適切なサービスではありません。しかし、ビル管理システムをエネルギー効率化のためだけでなく、他の可能性のためにも使えるように考えるという点については、大いに賛成です。

 KNXとIEEE 1888は最も重要な要素を共有していると思います。例えば、IEEE1888もKNXもセキュリティについて共有できる部分があります。また、KNXはすでにBACnet注5と連携して使われているし、IEEE 1888もBACnetと連携していると聞いているので、IEEE 1888とKNXは今すぐにでも連携が可能だと思います。

 ですから、いろいろな取り組みを統合して、両者がどのように協業できるのかを考えていきたいと思っています。個人的には、KNXとIEEE 1888は共通のフィールドをもっていますし、すぐにでも共通の取り組みを始められるのではないかと思っています。

江崎:ありがとうございます。


▼ 注5
BACnet:BACnet:Building Automation and Control Networking protocol、ビルオートメーション/制御ネットワークプロトコル規格(非IPのレイヤ3〜レイヤ7プロトコル)。ASHRAE(米国暖房冷凍空調学会)で策定されANSI、ISO/IECで標準化された規格。

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