KNXのプロフィールと最近の取り組み
江崎:最初に、KNXのプロフィールと最近の取り組みについて簡単に教えていただけますでしょうか。
Lux:表1に、KNXのプロフィールを簡単にご紹介させていただきました。KNXの取り組みは、1990年頃(前身のEIBA)から始まっています。その当時、KNXの技術はEIB(European Installation Bus、欧州の電気部品の相互接続バス規格)と呼ばれていました。なぜ欧州という単語が含まれているかというと、この技術は欧州で生まれたもので、主に欧州の企業で使われていました。
表1 KNX のプロフィール(2014年9月現在)
〔出所 KNX 協会のホームページより〕
例えば、EIBの開発者でもあるSiemens(シーメンス)やSchneider Electric(シュナイダーエレクトリック)、ABB(スイスに本社を置く電力・重電関連の多国籍企業)などで使われていますが、これらの企業の本社はすべて欧州にあります。
〔1〕KNXの3つの優位性
Lux:KNXの背景には、電力エネルギーに関する中立的な技術を開発するというコンセプトがあります。これは例えば、通信と電力の流れを分けて考えるというようなもので、KNXには3つの重要な優位性とも言えるものがあります。
1つ目は、中立的な標準であるということです。さまざまなメーカーによるあらゆる機器が相互にやり取りでき、相互運用が可能です。KNXのロゴがついている機器であれば、あらゆるメーカーのあらゆるアプリケーションで使うことができます。そのような認証を受けた機器はすでに7,000以上あります。
2つ目として、KNXについて最も重要だと考えている要素は、私たちは1つのツール(ソフトウェア)で、350を超えるメーカーによる7,000を超える機器の開発などを行えるという点です。さまざまなツール、それも特定のメーカー依存のツールを使う必要はありません。あらゆる機器に対して1つのツールで済むのです。
3つ目は、開発当初から複数の通信媒体を利用できるようにしているという点です。ツィトペアケーブルや電力線ネットワーク(PLC)だけでなく、無線やIPにも対応しています。これら3点のほか、KNXトレーニングセンターなども優位性だと言えます。
〔2〕KNXのグローバル展開
江崎:グローバルにはどのように展開しているのでしょうか。
Lux:KNXは1997年には欧州標準となり、このことが大きな一歩となりました。10年後の2007年にはISO規格となり、KNXは国際標準となりました。これがKNXのグローバル展開の始まりでした。その後、KNXは多くの国で標準規格となっています。中国もその1つです。KNXは、中国における家庭およびビル制御向けの標準規格としては唯一のものです。またオーストラリアやインド、その他の多くの国で、KNXは国家規格となっています。
その後のKNXのイノベーションの取り組みは、アジア、とくに東南アジアから始まっています。当時、最も経済的に巨大な市場の1つであった中国から取り組みを始めましたが、その後アジアのその他の国でも急速に認められるようになりました。韓国では2社の企業から取り組みが始まりました。また、中国では、欧州企業4社による取り組みからKNXの活動が始まりましたが、現在では20社の中国企業がKNXのメンバーとなり、機器の開発を行っています。
日本でも設立時は9社注3でしたが、今後は中国や韓国と同じように、多くのメンバーが参画してくると考えています。
また最近では、アジアから南米にも活動範囲を広げています。ブラジルでは2012年から活動を開始し、その後、アルゼンチンとウルグアイでも活動を始めています。昨年(2013年)はチリとコロンビアでの取り組みが始まり、今年(2014年)の10月にはメキシコが続く予定になっています。今年の8月にはカナダでの活動を開始しましたが、2015年にはKNXのグローバル展開の最後のステップとして、米国での取り組みが始まる予定です。
このように、世界中でKNXの活動が行われるようになったのは、KNXがオープン規格であるためです。照明やエネルギー効率化を実現するための機器から、オーディオやビデオなどの黒物家電、白物家電、そしてスマートメーターといったあらゆる機器が、セキュリティも含めてKNX開発当初からKNXのアプリケーションに含まれているのです(図1)。
図1 他システムと容易に連携するKNX
〔出所 KNX Association International〕
▼ 注1
IEEE 1888-2011標準(UGCC-Net:Ubiquitous Green Community Control Net-work Protocol)。スマートグリッド(BEMS)向けのIP上で動作するアプリケーションプロトコル(レイヤ7)。2011年2月に策定。
▼ 注2
Green University of Tokyo Project。2008年8月に設立された東大の産学連携組織。http://www.gutp.jp/
▼ 注3
ABB株式会社、株式会社富士通ゼネラル、シュナイダーエレクトリック株式会社、インターテックリサーチ株式会社、株式会社インデックスコンサルティング、パナソニック株式会社、ワゴジャパン株式会社、テュフ・ラインランド・ジャパン株式会社、株式会社きんでん、の合計9社。