ブロックチェーンを使った2つの実証実験の例
〔1〕実証実験例 その1:ミャンマーにおけるマイクロファイナンス実証実験
国内企業による先行事例の1つに、インフォテリアが手がけた「マイクロファイナンス実証実験」がある。マイクロファイナンスは「小規模金融」ともいい、一般の銀行などの融資を得られない低所得層の人々に対して小口の貸し付けを行うもので、もともとは貧困層の救済や生活改善を主眼としていた。これが1983年にバングラデシュで設立されたグラミン銀行の存在により、近年急速に注目を集めるようになった。
ここで紹介するのは、2016年にミャンマーで始まった実証実験である。同国ではほとんどの国民が自分の銀行口座をもっておらず、日々の生活費を借りたくても借りられない。そうした人たちを救済するマイクロファイナンスの仕組みを、ブロックチェーンで構築しようというのだ。
ミャンマーでマイクロファイナンスを手がけるBCファイナンス社ではもともと、バングラデシュで開発されたソフトウェアを使ってマイクロファイナンスの業務を行っていたが、この保守費用が高額なため、ブロックチェーンを使ってより低コストで運用可能なシステムができないかと考えたのが今回の実証実験のきっかけとなった。
相談を受けたインフォテリアでは、マイクロソフトのクラウド基盤であるMicrosoft Azure 上に、プライベートブロックチェーン「mijin」(ミジン)によるネットワークを構築し、それらとミャンマー側の既存システムを連携させる仕組みを提案した(図2)。既存のシステムで使われていた顧客情報などのマスターデータはそのまま活かし、トランザクションの部分だけをブロックチェーンでコントロールするという設計を新たに行った。
図2 ミャンマーにおけるマイクロファイナンス実証実験の構成
BCF:BC Finance Limited、ミャンマー連邦共和国最大のマイクロファイナンス機関
出所 森 一弥氏(インフォテリア株式会社)提供資料、2017年8月29日
実証実験にあたっては、すでに稼働中のマイクロファイナンスのサービスを止めることなく、併行して新しいブロックチェーン側のシステムを実験稼働させた。およそ1カ月半の試用期間後に確認した結果、両システムは同じ残高を示し、ブロックチェーンによるシステムが問題なく動いていることを証明できた。同社によると、ブロックチェーンを使ったマイクロファイナンスの実験では世界初の成果である。
〔2〕実証実験例 その2:インフォテリアの株主総会決議
もう1つ、上場企業の株主総会を対象とした世界初の試みに、インフォテリアが行った自社の株主総会をテストケースにした実証実験がある(図3)。総会決議には、株主の本人確認や、議決権行使における投票の確実性、結果集計の正当性などが厳密に担保されなくてはならない。そうした点でブロックチェーンの提供する証跡管理などのセキュリティ機能はまさにうってつけだといえよう。
図3 インフォテリアが行った自社の株主総会決議の構成
出所 森 一弥氏(インフォテリア株式会社)提供資料、2017年8月29日
2017年5〜6月に実施された実証実験では、まず議決権を行使する「株主」役を務める人々を広く募集し、事前登録してもらった。これで集まった289名の登録「株主」は、各自想定した持ち株数を申告。この結果、最低単元の100株という人もいれば、最大限の10万株をもつ「株主」もいるというバラエティ豊かな顔ぶれになった。
決議は、登録した人に投票用のコインを配って持ち株数に応じて行ってもらった。また投票に際しては、PCやスマートフォンなどどんな端末でも対応できるよう、登録・投票用フォーム作成にグーグルの無料サービスである「Google フォーム」を利用した。「株主」はこのフォームを使って、世界4カ所(西日本、東南アジア、米国西部、ヨーロッパ北部)に展開したmijinのブロックチェーン ネットワークのノードに対して投票を行った。またその結果はグラフ化され、AWS(Amazon Web Services)のクラウドストレージAmazon S3に公開されたものをスマートフォンから見られるようにした注5。
▼ 注5
インフォテリア株主投票の詳細:
http://stock2017.s3-website-ap-northeast-1.amazonaws.com/explain.html?utm_content=agm2017ex&utm_medium=article&utm_source=infoteria_press&utm_campaign=infoteria_press_20170601
https://www.infoteria.com/jp/news/press/2017/06/27_01.php