セキュリティと可用性で注目されるブロックチェーン
さてブロックチェーンは、いつから世の中に知られるようになったのだろうか。Googleトレンドで検索してみると、日本語の「ブロックチェーン」単独でも、また英単語の「Blockchain」を加えた場合も、いずれも約5年前、2012年くらいからじわじわと検索キーワードに登場し始め、特に日本語では2015年末あたりから急速に人気が上昇してきている(図1)。2017年10月現在もこの検索数は急速に伸びており、世の中の関心と需要はまだまだ伸びることは予想に難くない。
図1 日本では2015年末あたりから急速にブロックチェーンへの注目度が高まっている
これほどブロックチェーンが注目を集めるもっとも大きな理由は、その優れたセキュリティ特性とネットワークの可用性にある。仮想通貨であるBitcoinの基盤技術だといえば、それも納得がいくだろう。あいにく日本で多くの人が最初にBitcoinの名前を耳にしたのは、2014年2月のBitcoin交換所「マウントゴックス社」の経営破綻のニュースだった。しかし、これはあくまで一企業の経営の問題であって、Bitcoinもブロックチェーンも、きわめてセキュアなネットワーク取引を可能にする技術に変わりはない。
すでにアフリカでは土地登記のシステムが実用化
ブロックチェーンの「仮想通貨以外」の使われ方の事例をここで紹介しよう。
西アフリカのガーナ共和国やナイジェリアでは、すでにブロックチェーンを利用した土地登記が盛んに行われている。
アフリカのこうした地域では、経済先進国のように国によって保障された土地所有や取引の仕組みがなく、部族のリーダーや地方政府が管理している。このため、土地の所有権があいまいで争いも多く、外国企業のインフラ投資の妨げになっていた。
ブロックチェーンを基盤とした土地登記プロジェクトである「Bitland(ビットランド)」は、こうした土地や不動産の所有権をブロックチェーンに登録して、どこの土地が誰のものかを明確にし、なおかつ権利情報への平等なアクセス機会を提供することに貢献している。この成果によりBitlandは、2016年に世界中の優れたITプロジェクトを表彰するNetexplo(ネテックスプロ)賞を受賞した注2。
こうした展開をビジネスの視点から見ると、ブロックチェーンで何か新しいビジネスをと考えている企業にとっては、まさに今がチャレンジのタイミングだと言えよう。すでに国内外で金融以外のさまざまな業種・業界で、ビジネスの可能性を調査する動きや、具体的な検証プロジェクト注3などが次々に立ち上がっているからだ。
他社に先んじてブロックチェーンを応用した新しいビジネスを創り出すことができれば、かなりの社会的インパクトは間違いないし、ITの世界では、他の業種にも増して先行者優位の力学が強く働く傾向がある。このことからも、「もはや傍観しているときではない」という意識が、企業の間に広く醸成されつつあるのは事実だ。
Profile
工藤 淳(くどう あつし)
オフィスローグ。
広告制作会社、出版社などに勤務の後、フリーライターとして独立。主にエンタープライズIT関連のビジネス記事を手がける。
▼ 注1
可用性(かようせい):Availability。コンピュータやネットワークシステムが継続稼働できること。壊れにくい、復旧が早いなど耐障害性に優れ、信頼性の高いシステムである状態が継続されている度合いを表したもの。
▼ 注2
https://www.netexplo.org/en/intelligence/innovation/bitland?flag=Netexplo+Award+Winner®ion=Africa+%26+Middle+East&year=2016
http://landing.bitland.world/
▼ 注3
エネルギー分野では、米国ニューヨーク州ブルックリン地区において、ブロックチェーンネットワークを構築したトランザクティブ・エネルギーの実証が行われている。また、ドイツでは、ゾンネン社(蓄電池メーカー)とのテネット社(系統運用者)が、住宅用ソーラー蓄電システムを相互接続して24MWの系統用蓄電池として運用し、風力発電の出力抑制を緩和する実証実験を開始しており、ここで相互接続されているストレージは、IBMの商用ブロックチェーン・ソリューションで相互接続されている。