水素エネルギーへの移行:2050年までのロードマップ
次に、“Hydrogen, scaling up”(水素市場の拡大)に示された、2050年までの水素エネルギーへの移行のロードマップを概観してみよう(図6)。
図6 水素市場の拡大(Hydrogen, scaling up):2050年までの予測
$2.5tr=2.5兆ドル(250兆円)、tr:Trillion = 1兆
出典 Hydrogen Council; IEA ETP Hydrogen and Fuel Cells CBS; National Energy Outlook 2016
出所 Hydrogen Council「Hydrogen,scaling up」、November 2017、
http://hydrogencouncil.com/wp-content/uploads/2017/11/Hydrogen-scaling-up-Hydrogen-Council.pdf
https://newsroom.toyota.co.jp/jp/detail/19712845
〔1〕2050年までに水素がCO2の削減量の20%を担う
- 今後、水素の大量導入により、2050年までに、水素利用は全世界のエネルギー消費量全体の約1/5(20%)を担うことが可能となる。これによって、CO2排出量を、現状より年間約60億トン減らすことができる。これは、パリ協定で規定された、地球温暖化対策として気温上昇を2℃まで抑えるために必要なCO2の削減量の約20%を担うことになる。
- 水素の自動車産業における需要について、水素協議会は、2030年までに、
①1,000万台から1,500万台の燃料電池乗用車
②50万台の燃料電池トラックが走ると試算している。
- また、他の産業分野では、例えば産業上の工程において、水素を原材料として利用するほか、熱源、動力源、発電用、あるいは貯蔵用など、さまざまな利用がなされると想定されている。
- さらに、調査報告書では、水素の需要は2050年までに現在の10倍になると予測。パリ協定の「2℃シナリオ」における2050年の最終エネルギー需要の18%に相当する「80EJ」注7程度のエネルギーが水素化されると見込まれている。
今後、世界の人口注8が年々増加し、2050年までに20億人程度の増加が見込まれるなか、水素技術は、持続可能な経済成長を生み出す能力をもっていると見られている。
以上を整理して示したのが、図6である。
〔2〕投資額:2030年までに累計2,800億ドル(28兆円)が必要
このような水素の大量導入には、大がかりな投資も必要となる。その額は、年間で200億ドルから250億ドル(2.5兆円)、2030年までの累計では2,800億ドル(28兆円)が必要であると試算されている。
現在、世界中で毎年1.7兆ドル(170兆円)がエネルギー分野に投資されているが、その中には石油・ガス(6,500億ドル)や再エネ(3,000億ドル)、自動車産業(3,000億ドル以上)が含まれている。
水素をめぐる新しい動き:環境省と国際水素エネルギーフォーラム
〔1〕環境省が低炭素水素技術実証事業を公募
このような国際的な動きに対して、環境省では、水素の低炭素化と本格的な利活用を通じて、中長期的な地球温暖化対策を推進することを目的とし、低炭素な水素サプライチェーンの実証を行っているが、平成30(2018)年2月2日に、新規事業「平成30(2018)年度地域連携・低炭素水素技術実証事業」の公募を以下のように開始した注9。
新規事業の具体的な内容は、地域の再エネなどを活用して水素を製造、貯蔵、輸送、供給し、燃料電池や燃料電池自動車(FVC)などへ利用するまでの一貫した低炭素な水素サプライチェーンの実証を行うことである。
- 公募期間:平成30(2018)年2月2日〜2月28日
- 対象/内容:民間団体等/委託
- 予算および実施期間:平成30(2018)年度予算(新規事業公募分):8億円/実施期間:原則2年間以内
〔2〕韓国・ソウルで国際水素エネルギーフォーラムの開催
一方、韓国・ソウルでは、韓国政府の閣僚や、世界の石油・ガス・エネルギー・科学技術・自動車業界の幹部、および前述した水素協議会のメンバーなどが参加して「国際水素エネルギーフォーラム」が2018年2月6日に開催注10され、水素技術の展開を加速させるために、韓国政府との戦略的対話も行われた。
今回開催されたフォーラムは、水素協議会が策定した調査報告書“Hydrogen, scaling up”(水素市場の拡大)で示された2050年までの戦略的取り組み(ロードマップ)を実現する第一歩ともなった。
韓国政府は、このフォーラムを通して、2022年までに水素ステーションを310カ所設置することを目標に、投資を拡大すると発表した。
これと並行して、2030年までにパリ協定に対応するため、CO2排出量を37%削減するという野心的な計画も発表した。
▼ 注7
1EJ=1ExaJoule(エクサジュール)=1018Joule=278×106MWh
▼ 注8
国連が発表した「世界人口予測2017年改定版」(2017年6月21日)によると、毎年約8,300万人の人口増により、現在76億人の世界人口は、2030年までに86億人、2050年に98億人、そして2100年には112億人に達すると予測されている。
https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_d/blog/20170626
▼ 注9
問合せ先
▼ 注10
http://hydrogencouncil.com/international-hydrogen-energy-forum-seoul-korea/