2050年カーボンニュートラルに向けた「中長期ロードマップ」
オフィスビルやホテルなどが集合した街区には、図1右に示すように、熱供給施設(エネルギープラント)が設置され、そこで製造された温水や冷水、蒸気が冷暖房に活用されている。これは熱供給事業と呼ばれ、公益事業として「熱供給事業法」により熱源設備の加熱能力が21ギガジュール注1/時以上の熱源施設を運営する団体がこの事業者として認定されている。
その熱供給事業者らによって構成される一般社団法人 日本熱供給事業協会が2024年7月1日、「地域熱供給中長期ロードマップ」を発表した。同協会では2020年に、政府が掲げる2050年カーボンニュートラル宣言を見据え「地域熱供給の長期ビジョン」を公表しており、今回発表したロードマップはビジョン実現のための具体的なアプローチとなる。
図1 「熱供給事業」とは?
出所 経済産業省、資源エネルギー庁 Webサイト「その他の情報提供」
2020年には「地域熱供給の長期ビジョン」を公表
日本の本格的な地域熱供給(地域冷暖房)は、1970年の大阪万博を契機に、大阪千里ニュータウンに誕生。以後各地に普及する中で、大気汚染や省エネルギー、災害など時代の社会課題に対応してきた。
日本熱供給事業協会では2050年カーボニュートラルを見据えた社会課題として、低・脱炭素化、より効率的なエネルギーマネージメント、都市強靱化、地方創生を挙げ、それらの解決を目指す「地域熱供給の長期ビジョン」を取りまとめて2020年に公表した。その中で今後、熱供給事業が目指すべき役割として次の3点を定めている(図2)。
1.エネルギートランスレーター(エネルギー転換者)
2.エリアエネルギーサービスプロバイダー(サービス提供者)
3.レジリエンス注2サポーター(強靱化支援者)
図2 地域熱供給の長期ビジョン「社会課題の解決に貢献するDHC(地域冷暖房)の役割」
DHC:District Heating and Cooling、地域冷暖房
BCD:Business Continuity District、街区の強靭化(業務継続地区)。災害時に業務を継続的に行うために必要なエネルギーの安定供給が確保される地区
出所 一般社団法人 日本熱供給事業協会、「地域熱供給の長期ビジョン(概要版)」2021年3月10日
3つのアプローチとそれぞれの取組み例を発表
今回発表した「中長期ロードマップ」では、2050年カーボンニュートラルを目指す長期ビジョン達成に向けての具体的なアクションとして、次の3つのアプローチを提示している。
1.最新技術の導入による省エネ・省CO2運転の取組み
・デジタル・AI活用熱製造システムの実装(EMS注3等)
・エネルギーマネージメント、高効率設備導入等
・CCU注4の導入に向けた検討
2.熱の脱炭素化に向けた取組み
・カーボンオフセット注5熱の供給の開始
・再エネ熱・排熱の有効利用システムの実装
・関係業界などと連携したクリーンガス注6の導入
・関係業界等と連携した水素の導入
3.街のレジリエンス強化に向けた取組み
・地方自治体と連携した以下の取組み
①コージェネ注7設置型熱供給プラントの災害時における熱と電力の継続供給
②蓄熱槽設置熱供給プラントの災害時における消防用水・生活用水の継続供給の推進
上記項目ごとに各地の熱供給事業者により様々な取組みが行われており、それらの概要が、発表に合わせて公開された資料「地域熱供給中長期ロードマップ」で紹介されている。
注1:ジュール:熱量を表す単位。通常「J(Joule)」で表記。1Wの電力で1秒間電流を流したときの熱量が1J。
注2:レジリエンス:Resilience。災害等からの回復力、復元力あるいは災害等への強靭性などを指す。
注3:EMS:Energy Management System、エネルギー・マネージメント・システム。、エネルギー消費データをもとに各種設備を制御し全体の運用効率を最適化するシステム。
注4:CCU:Carbon dioxide Capture, Utilization、CO2を分離・回収、貯留、利用する技術。
注5:カーボンオフセット:Carbon Offset。企業などの事業活動に伴って排出される温室効果ガスの排出量を埋め合わせる(オフセットする)取組み。
注6:クリーンガス:Clean Gas。合成メタンなどのように、燃焼しても大気中のCO2が増えないとみなせる環境価値をもつガス。
注7:コージェネ:コージェネレーション(Cogeneration)、熱電供給。天然ガスや石油等によって発電を行い、その際に生じる廃熱も同時に回収・利用するシステム。
参考サイト
一般社団法人 日本熱供給事業協会 お知らせ、2024年7月1日、「『地域熱供給中長期ロードマップ』の策定について」
一般社団法人 日本熱供給事業協会、2024年7月1日、「『地域熱供給中長期ロードマップ』-街の脱炭素化、新しい街づくり、レジリエンス強化ヘの貢献に向けて 基本方針」
一般社団法人 日本熱供給事業協会、2021年3月10日、「地域熱供給の長期ビジョン(概要版)」