[特別レポート]

5G時代に実現されるエッジ・コンピューティングとIoTシステム

― エッジ・クラウドへAT&T、マイクロソフトも参戦 ―
2018/08/01
(水)
安田 豊 京都産業大学 情報理工学部 准教授

基盤となるSDN/NFV技術

 筆者の理解では、このような5Gのためのエッジ・クラウドが、現時点で最も早く実現される大規模エッジ・コンピューティング・インフラだと思える。

 現在、万単位で設置されているモバイル通信の基地局注12にエッジ・クラウドを整備し、そこに毎日のようにリリースされる各種のエッジ・アプリケーションを展開し、運用するには、前述したSDN/NFVによる完全な自動化以外に手段がない。このような背景を考えれば、エッジ・クラウドが5Gをアーキテクチャやシステムの面からアピールするMWC 2018(Mobile World Congress)などでなく、ソフトウェアを主体とするONS 2018で最初に強くアピールされたのも理解できる。

 ONS 2018におけるエッジ・クラウド関連技術の発表は、さながらSDN/NFV技術の見本市のようであった。

〔1〕最も大きなインパクト:Akrainoプロジェクト

 最も大きなインパクトがあったセッションとして“AT&T Blueprint for a Successful Edge Cloud - Akraino Project Overview”〔成功するエッジクラウドのためのAT&Tの青写真−Akraino(アクライノ)プロジェクトの概要〕を紹介する。

 Akraino(EdgeとInnovationのそれぞれのギリシア語Ακρη とΚαινοτομίαからつけられた)は、AT&Tとインテル(Intel)が中心になって開発しているエッジ・クラウドの運用自動化ソフトウェアである。

 図2に示すように、Akrainoは多くのソフトウェアと連携して動作し、エッジ・クラウドの構築・運用管理をZero Touch(ゼロタッチ)、つまり個別の煩雑な手続きほぼゼロで自動化するものである。

図2 多くのソフトウェアと連携して動作するAkraino

図2 多くのソフトウェアと連携して動作するAkraino

出所 ONS2018_Akraino_overview_p10.pdf

 基本的なアーキテクチャについては、別のセッション“Edge Compute”でAT&Tのオリバー・スパットシェック(Oliver Spatscheck)氏が示したスライド(写真3)が参考になるだろう。Akrainoで提供されるNEV(Network Edge Virtualization、ネットワークエッジ仮想化技術)のSDKのリファレンス・ライブラリとAPIによって、エッジ・アプリケーション開発を容易にし、標準化されていくことを狙っている。

写真3 Akrainoのアーキテクチャ概要(インテルからの提案)

写真3 Akrainoのアーキテクチャ概要(インテルからの提案)

出所 筆者撮影

 もちろん、NFV技術そのものは5Gのために作られたものではなく、その管理システムなども5Gとは直接関係なく以前から各所で開発されてきた。

 しかし、従来型データセンターへの適用をターゲットに開発されている既存のソフトウェア群は、そのまま5Gのエッジ・クラウドでは使い勝手がよくないと考えられる。その理由は、あまりにも管理対象の規模が大きく、地理的にも非常に分散しているからだ。Akrainoが、わざわざキャリア用のものとして開発されているのは、そのためである。

SDNとソフトウェアによる全体最適化

 当初、SDN技術は、ネットワーク機器のソフトウェアによる設定・操作によって、オペレータの省力化を実現することを主たる目的としていた。

 しかし、SDNソフトウェアの厚みが増し、実応用が進むにつれて、SDNは、「(ソフトウェアが実現する)自動化による全体最適化」のための技術と見なされるようになった。

 この「自動的な全体最適化」という機能は、ネットワーク機器運用という目的から発展し、より幅広い意味をもつようになり、現在は、Software Definedという言葉は単に「ソフトウェアによる自動化・最適化が可能な何か」を意味する接頭辞となった。

 例えば、SDN、SDDC(Software Defined Data Center)、SDI(同Infrastructure)、SDS(同Storage)など、最近ではさまざまな分野についてSoftware Define化を示す用語が使われるようになり、対象分野を一切限定しないSDX(同EverythingあるいはAnything)などといった表現までされるようになった。

 まさにONS 2018では、「Integrate」(統合)、「Automate」(自動化)、「Accelerate」(加速)がスローガンだった(写真5)。

写真5 ONS 2018会場のあちこちに掲げられていたスローガン
「Integrate」「Automate」「Accelerate」

写真5 ONS 2018会場のあちこちに掲げられていたスローガン<br>「Integrate」「Automate」「Accelerate」

出所 筆者撮影

 このスローガンは、SDNが「自動化による全体最適化」をもたらすことを端的に示しており、それを良しとする企業はSDX化、すなわちビジネスのコア部分をソフトウェア化せざるを得ない。しかし、自社の競争力を支えるコア部分を外注する経営者はいない。そこでAT&Tは、大量のソフトウェア・エンジニアを雇用し、Akrainoをはじめ多くのキャリア用ソフトウェア群を猛烈な速度で開発している。


▼ 注12
例えば、NTTドコモの2018年3月31日における全国のLTEサービス基地局数は、18万5,000局。

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