[特別レポート]

5G時代に実現されるエッジ・コンピューティングとIoTシステム

― エッジ・クラウドへAT&T、マイクロソフトも参戦 ―
2018/08/01
(水)
安田 豊 京都産業大学 情報理工学部 准教授

IoTとデータ駆動による全体最適化

〔1〕SDN化されたエッジ・クラウド

 ここで、話題をIoTに戻そう。大規模なデータ駆動(データドリブン)による全体最適化は、IoTがもたらす大きな利益の1つであるが、これはすでに述べたSDNの自動化による全体最適化ときれいに重なっている。

 また、大規模なIoTシステムの応用には、爆発する大量データをセントラライズド・クラウド(Centralized Cloud)の前段で集約するエッジ・コンピューティングが不可欠であったが、それがこれまでプラットフォームとして整備される見通しが立たないことが問題であった。

 しかしそれが、5G通信サービスを提供するために、モバイル・キャリアがSDN化されたエッジ・クラウドを実社会にインストールすることによって、ついに実現される可能性が出てきたのだ。

 ただし、いかに5GによるIoTアプリケーションが現在利用されているものと大きく違うものとなる「可能性がある」とはいえ、実際に普及するには時間が必要だ。多くのモバイルキャリアは2020年あるいはそれまでに5Gのサービスを提供する、と言っているが、しばらくは従来通りのIndustrial IoT(IIoT、産業用IoT)などが目立つ状態が続くだろう。

 とはいえ、以前からエッジ(あるいはフォグ)コンピューティングを謳ってきたIIoTデベロッパーは存在しており、エッジ・クラウドReady(エッジクラウド提供可能)な状態と言えることに注目しておきたい。

〔2〕注目されるフォグホーン社:GEと連携

 2017年10月に、Series B(シリーズB注13)で3千万ドル(約30億円)を集めて注目された注14IoT基盤ソフトウェアのスタートアップであるフォグホーン・システムズ(FogHorn Systems、米国カリフォルニア州。以下、フォグホーン)は、そうした企業の1つである。

 フォグホーンはその社名が示すように、システム・アーキテクチャにFog Computing注15(エッジ・コンピューティング)の考え方が初めから組み込まれている。

 フォグホーンのソフトウェアは、当初からエッジでの処理を強く意識したもので、センサーなどから送信されるデータの処理はその大部分をエッジで行い、クラウドはバックエンドとして、全体での統合分析や外部のシステムと連携するような処理を行う。

 2018年3月の筆者の取材に対して、フォグホーンのビジネス開発部門の副社長(VP of Business Development)である遠藤雄太氏は、「現場で生まれているデータのうち90%ぐらいはその場で食べ尽くさなければならない」とコメントした。「エッジでリアルタイム処理・解析・学習などをサクサク回して90%のデータを消化し、その過程で10%の、本当に重要な、時間が経っても価値のあるデータをクラウドへ回すのだ」と言う。

 フォグホーンは、すでに2015年以来GEとパートナーシップを結んでおり、同社のシステムは、GEの「Predix」をバックエンド・クラウドとして、その前段で動作している。

 GEが、IIoTを考えるうえで重要なリーディング企業の1つであることは業界での共通認識であるが、Predixは同社が自社開発した、産業用データを分析するクラウドベースのプラットフォームであり、GEは自身を産業機器分野のレガシー企業からデジタル企業へと変革するのだ、と宣言している注16

〔3〕AT&Tもデジタル化宣言

 GEの企業自身のデジタル化宣言とほぼ同時期に、やはりAT&Tが同様の発言をしている。

 2015年のONSで、筆者は、彼らが「我々は以前とまったく違う、ソフトウェア・カンパニーに変わる」と宣言し、SDNの導入が企業まるごとのソフトウェア化を促していることを示した注17

 産業機器やモバイルキャリアのようなレガシーの代表ともいえる企業が、ネット企業的なビジネスサイクルを導入することに大きな力を注いでいる。

 筆者は、本稿の冒頭に「IoTはその発展によってビジネスや生活が大きく変わると期待され、注目されている」と述べたが、その一段階前のこととして、企業そのものが大きく変わるのを我々は目撃しているのだ。

今後の展開:IoT応用に大きな変化をもたらす5G

〔1〕底辺でつながっているIoTとSDN

 本稿ではまず、5Gキャリアによってエッジ・クラウド環境が整備されていく構図について説明しながら、その実現のためにAT&Tが5Gに適応したSDN/NFVの技術開発に大きく重きを置いている姿を示した。

 そして、IIoT分野でよく語られる「工場や産業機器などの情報を集約・分析してデータによって全体最適化を図る」ストーリーが、SDNの提示する「自動化による全体最適化」と同じものであることも示した。さまざまな意味で、IoTとSDNは底のほうでつながっている。

 GEのデジタル化とAT&Tのソフトウェア化の挑戦は、まるで双子の兄弟が同じ山を両側から登っているようだ。

 ところで、本稿ではさまざまな5Gの展望を肯定的に述べたが、今すぐにでも大きな一般的需要が期待でき、しかもリアルタイム性を要求する用途としてそのビジネスの姿がはっきり見えているのは、VR/ARゲームあるいはエンターテインメント指向のコンテンツくらいだろう。それでもキャリアが莫大な投資を必要とするエッジ・クラウドの整備を急ぐのは、それがキャリアのトラフィックを削減するうえで重要な道具だからでもある(コラム1参照)。


▼ 注13
Series B(シリーズB):Series B Foundingとも言われる。ベンチャーキャピタル等が新興企業などに対して出資する段階を表し、シリーズAに続く第2段階の投資のことを意味する。シリーズAの投資は、起業(スタートアップ)したばかりの企業を対象としていたのに対して、シリーズBは、スタートアップ企業の事業がある程度進んだ段階を対象とする。

▼ 注14
Industrial IoT Leaders Invest $30 Million in FogHorn’s Series B Funding

▼ 注15
Fog Computing:インプレスSmartGridフォーラムサイトの「クラウドによる一極集中の限界を打破するエッジ/フォグコンピューティング」を参照。

▼ 注16
GE、デジタル・インダストリアル・カンパニーへの変革を加速

▼ 注17
— Open Networking Summit 2015レポート — ソフトウェアが世界を変える! SDN/NFVとオープンソースによる企業改革の時代へ

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