[特別レポート]

エッジ・コンピューティングを加速するクアルコムのIoTプラットフォーム戦略

― 世界初の30億個のトランジスタを搭載したSnapdragon 835を核に ―
2017/10/17
(火)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

LTE/4Gなどの移動通信業界をリードしているモバイル通信・半導体関連企業のクアルコム(注1)が、世界初の30億個のトランジスタを搭載した最新鋭プロセッサ「Qualcomm Snapdragon 835」を核に、同社のIoTプラットフォームに対応したIoTの製品化を加速させている。
クアルコムは、2016年2月、組込み型AI技術やSoM(System on Module)などの技術を提供するサンダーソフト社(注2)と、IoT市場をターゲットとした合弁会社「サンダーコム」(Thundercomm)を設立。Snapdragonシリーズを用いて、ドローンやVR/AR、ロボティクス、ウェアラブル、インテリジェントカメラなどのIoTデバイスをターゲットとしたプラットフォームを開発し、提供している。
ここでは、クアルコムCDMAテクノロジーズ副社長 須永 順子(すなが じゅんこ)氏とサンダーソフトジャパン株式会社 代表取締役社長 今井 正徳(いまい まさのり)氏(写真1)が、2017年8月24日に発表した内容を中心にレポートする。

写真1 ククアルコムCDMAテクノロジーズ 副社長 須永 順子氏(左)とサンダーソフトジャパン株式会社 代表取締役社長 今井 正徳氏(右)

写真1 ククアルコムCDMAテクノロジーズ 副社長 須永 順子氏(左)とサンダーソフトジャパン株式会社 代表取締役社長 今井 正徳氏(右)

出所 編集部撮影

IoT時代とクアルコムのビジネス戦略の転換

 これまでクアルコムは、モバイル業界向けに携帯電話やスマートフォン用の半導体チップやライセンスビジネスに特化してビジネスを展開してきた。例えば、Wi-FiやBluetoothのチップは、1日当たり100万個を、4G/LTEなどのモバイル向けのモデム用チップは、1日に230万個以上出荷しており、従来からIoTエコシステム市場でビジネスを展開してきた。しかし、同社が目指すゴールはここだけではない。

 クアルコムは、モバイルで培ってきた技術を、Snapdgagonシリーズ(例:200/400/

600/800)というSoC注3に集約してきたが、このSnapdgagonシリーズによってIoTのイノベーション(革新)を加速させることがゴールである、としている。

〔1〕IoT業界へ対応した販売体制の確立

 これを実現するため、クアルコムは、その世界戦略を大幅に転換し、これまでモバイル業界対応の限定的なビジネスから、より広いIoTビジネス市場への展開を開始した。このため、新たにIoTビジネスに参入しようとしている多くの企業が、ワンクリックで購入でき容易にIoT市場に参入できるよう、柔軟な販売体制を整えた。

 具体的には、日本では、米国Arrow Electronics(米国コロラド州設立:1946年)の子会社、アロー・ユーイーシー・ジャパン株式会社(東京都・港区)という一般流通会社とも提携している。

 これによって、すでに、IoTや組込みシステム向けの製品例として、2015年からDragonBoard 410cを、2016年から携帯電話向けに搭載されているSnapdragon 410/600の組込み用「410E/600E」チップセット注4なども販売している。

〔2〕シリーズの最上位の「Snapdragon 835」

 IoT時代に求められる要素技術は、これまでクアルコムが得意としリードしてきたモバイル技術との共通点も多い。例えば、図1に示すように、同社はIoTの実現にも必須となる次の3要素を中心に、センシングや電源管理に至るまでの技術開発に取り組んできた。

  1. コネクティビティ(接続性:無線通信技術)
  2. コンピューティング(音声・データなどの情報処理技術)
  3. セキュリティ(無線通信のセキュリティからハードウェアの暗号化まで)

 クアルコムは、これらの培ってきた技術を、Snapdragonシリーズ注5の最上位の「Snapdragon 835」(正式名:Snapdragon 835 Mobile Platform、品番:APQ8098、写真2、写真3)注6というSoCに統合して、IoTを加速する環境の提供を開始した(図1)。

写真2 Snapdragon 835の外観

写真2 Snapdragon 835の外観

パッケージサイズ:12mm×12mm
(チップサイズ:72.3 mm2)
出所 Qualcomm:「SnapdragonをIoTへ〜IoTの製品化を加速〜」、2017年8月24日

写真3 Snapdragon 835の基本構成

写真3 Snapdragon 835の基本構成

出所 Snapdragon-835-mobile-platform-product-brief

図1 モバイル技術がIoTをドライブ(Snapdragon 835に集積された機能群)

図1 モバイル技術がIoTをドライブ(Snapdragon 835に集積された機能群)

GNSS/Location:Global Navigation Satellite System/ Location 、汎地球測位航法衛星システムによる位置情報
キー・プロビジョニング:キー(鍵)の最適な管理作業
TEE:Trasted Execution Environment、アプリの安全な実行環境を実現し、マルウェアなどによる攻撃からシステムを保護する環境
出所 Qualcomm:「SnapdragonをIoTへ〜IoTの製品化を加速〜」、2017年8月24日


▼ 注1
クアルコム(Qualcomm):Quality Communications(高品質な通信)に由来した社名。品質の良い無線通信の実現をミッションとして1985年に7月設立。本社は米国・カリフォルニア州、代表はスティーブ モレンコフ(Steve Mollenkopf)氏。
https://www.qualcomm.com/contact
現在、40カ国以上に188営業所を展開。同社の技術を実装した半導体ICと、技術のライセンスビジネスを核にしたファブレス企業。クアルコムCDMAテクノロジーズは、クアルコムの半導体部門の会社。

▼ 注2
サンダーソフト(ThunderSoft):中国・北京に、エッジ・コンピューティング・デバイスや組込みAIなどの技術を提供するプラットフォーム・プロバイダとして2008年に設立。世界15カ所に拠点に3,000名の技術者を擁し、クアルコムのSnapdragonチップセットによる企業の機器開発支援なども行っている。
http://www.thundersoft.com/index.php/Index/index/lang/en

▼ 注3
SoC:System on Chip、1個の半導体チップ上にシステムの動作に必要な機能を実装する設計手法。

▼ 注4
Snapdragon 410Eチップセット:製品名はAPQ8064E/APQ8016E。APUと電源管理IC、Wi-Fi/Bluetoothコンボチップ(組み合せチップ)、GPSの4チップで構成されたチップセット。IoTと組込みシステム用のチップセットで、LTEなどの携帯ネットワーク向けのモデムは含まれていない。
APUはAccelerated Processing Unitの略で、CPU(Central Processing Unit演算処理プロセッサ)とGPU(Graphics Processing Unit、画像処理プロセッサ)の機能を1つのチップに集積した統合プロセッサ。

▼ 注5
クアルコムのSnapdragonプロセッサの比較一覧を参照。

▼ 注6
製品仕様は以下からダウンロードできる。
https://www.qualcomm.com/products/snapdragon/processors/comparison
https://www.qualcomm.com/documents/snapdragon-835-mobile-platform-product-brief

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