震災における被害の状況と課題
〔1〕相馬が崩壊すると…日本が崩壊する
ここで、相馬市(図1)の震災の被害状況と課題を見てみよう。
図1 福島県相馬市の位置(右側が太平洋)
写真4 福島県相馬市 企画政策部長 宇佐見 清 氏
出所 編集部撮影
「相馬市で震災の被害が大きかったのは、そうまIHIエネルギーセンターの南(海水浴場の背後)に位置する松川浦(観光地)方面、さらに南の住宅地(干拓地)のある磯部地区でした。地震で亡くなったのは1名(棚からのモノの落下が原因)で、他はすべて津波による被害でした」と相馬市 企画政策部長の宇佐見清氏(写真4)は語る。
東日本大震災 相馬市の記録「第8回中間報告」(前出の写真3右)は、特に放射能汚染との関係も含めた相馬市の現状を広く知らせる(風評対策の一環)ことを重点項目の1つとしている。相馬市庁舎は、福島原発事故現場(東京電力福島第一原子力発電所)から45km、全壊した海岸沿いの磯部地区は40km、そうまIHIエネルギーセンターからも見える共同火力の煙突が50km地点である。
距離との関係で見ると、事故現場から20kmが政府の避難地区、30kmが屋内待避地区となったため、事故現場により近い南相馬市と、事故現場から南相馬市よりも離れている相馬市では、やや事情は異なる。しかし、それでも、震災直後の2011年3月17日の災害対策本部の会議では、「相馬が崩壊すると、仙台も崩壊する。東京が崩壊する。日本が崩壊する」などという緊迫した会議となり、ここで踏ん張らないといけないという結束した会議となった。
〔2〕最も困ったこと
「最も困ったのは、風評被害から物流がストップしたため、医療品、特に人工透析用の薬などの緊急手配が求められたことです」(同宇佐見氏)。さらに、ガソリンや灯油の不足も深刻となり「持って来ないなら取りに行く」という市長の方針の下に、タンクローリーを2台確保し、直接新潟まで買い出しにいくこともあった。また、その当時から現在に至るまで、相馬市の漁業や農業などへの風評被害の解消も、今後の課題となっている。
エネルギー面から見ると、比較的電気の回復は早かった。また、この地域は都市ガスではなく、LPガスであったことが幸いした。都市ガスであればガス代は安いが、地下の配管が破壊されてしまえばガスは使えない。宅配によるLPガスであったことで、このような災害を回避できたという。
現在でも尾を引いているのは、原発事故による風評被害であるが、原発事故現場から離れていることもあり、現在に至っても子供の内部被爆はゼロである。
〔3〕スマコミ事業における課題:逆潮流できない
一方、「相馬市の復興に向けて、そうまIHIエネルギーセンターと一緒にスマートコミュニティ(スマコミ)事業を組めたのは、1つの大きな成果であり、今後、相馬市にとって産業起こし、人材育成、交流人口の増大に向けて、さまざまな事業を展開できるという夢も膨らみます」と宇佐見氏は語る。
しかし、このエリアで、現在、大きな課題となっているのは、東北電力の系統に余裕がないため、送電系統に再エネで発電した電力を売電できないことである。すなわち、逆潮流できないのだ。このため、スマコミ事業を進めるにあたって、太陽光発電用にパワコン(PCS)を38台も多量に導入して、逆潮流防止のきめ細かい制御を行っている。
〔4〕救世主となるか、余剰電力による汚泥処理
「今回のスマコミ事業では、水素を相馬市の将来の産業起こしの種にしていきたいですね。また、次世代の子供たちにも燃料電池など、近未来の姿を見せることを通して、人材育成もしていきたいのです」(同宇佐見氏)。
今回の取材を通して、水素から始まったスマコミ事業が、再エネ発電の余剰電力によって水を熱して蒸気化させて貯蔵し、その熱を利用して市の汚泥処理を行い、汚泥処費用を大幅にコストダウンできる具体的な見通しも見えてきた。汚泥処理に関しては、現在、相馬市外の処理業者へ委託しているが、同市内で処理することで、年間4,000万円を要している委託費用の削減と経費の市内循環をめざしている。
「乾燥した汚泥でつくったペレットは、木質バイオマスと変わらないほど質がよいのです。これをバイオマス発電に利用することも可能です」と宇佐見氏は目を輝かせる。
この余剰電力を利用した汚水処理でペレットをつくるシステムがパッケージ化できれば、相馬市発の画期的なビジネスが、全国の自治体にも受け入れられる可能性が大きい。スマコミ事業が創る新たなビジネスへの期待は大きい。