米国トランプ大統領のパリ協定離脱宣言とCOP23
〔1〕COP23の印象
末吉 皆さんご存じのように、地球温暖化対策に向けて、フランスのパリで開催されたCOP21で採択(締結国は196カ国・地域:全会一致注2)されたパリ協定は、2016年11月に発効し、現在、2020年の始動に向けて活発な議論や準備が行われています。
具体的には、2016年11月のモロッコ・マラケシュのCOP22に続いて、2017年11月にドイツ・ボンで開催されたCOP23でも、パリ協定の実施に必要なルールを2018年12月のCOP24〔ポーランド・カトヴィツェ(Katowice)で開催〕までに完了させるべく議論が行われています。
石田 私もCOP23に参加しましたが、私の印象は、後ほどお話しするように、日本が海外から責められているというものでした。海外では、欧州を中心に火力発電が大幅に廃止されているほか、インドや中国でも火力発電の新設計画がかなり凍結されています。
しかし、日本では、温室効果ガス(CO2)排出量が多い石炭火力発電などの新増設計画が40基以上計画されていたり、火力発電の輸出を計画していたりしています。そのため、「日本は2050年までに80%のCO2削減目標を掲げているが、それを実現できるのか?」というような批判的な声を現地で多く聞かされました。
また、日本企業の参加は少なく、今後の日本の国際ビジネスの展開に不安を感じました。
〔2〕COP23で注目された2つのこと
末吉 それについては、私もいろいろ聞かされましたし、風当りを強く感じました。
今回のCOP23では、私は2つのことに注目しました。1つ目は、島嶼(とうしょ)国(小さな島国)であるフィジー共和国(Republic of Fiji)がCOP23の議長国となったこと、2つ目は、COP23の半年前の2017年6月1日に米国のトランプ大統領がパリ協定から離脱する(米国はすでにパリ協定を批准している)と表明した直後のCOP23であったため、米国はどう出るのか、という点です。
地球温暖化で最も被害を受けるのは、ほとんどCO2を排出していない島嶼(とうしょ)国です。地球温暖化は海面の水位を上昇させ、島自体(国自体)が消滅してしまう危機(生存の危機)をもたらすのです。今回のCOP23が、(大国や先進諸国ではなく)フィジーに議長を委ねたところに、国際社会の強い意思を感じました。ただ、フィジーには会議場やホテルなどの設備がないため(参加者は約2万3,000名)、ドイツがボンで開催できるよう会議の場所などを提供したのです。
石田 ドイツは積極的ですよね。同時に、その経済効果も大きくドイツの戦略には感心させられました。
末吉 もう1つは、トランプ大統領によるパリ協定からの離脱宣言後、米国はどうなってしまうのかという大きな懸念でした。結果から見ると、そのトランプ騒動のお蔭で、米国の民間〔ノンステートアクター(非国家アクター)〕が非常に活発化しました。
〔3〕注目された米国の「WE ARE STILL IN」
石田 COP23会場(ボン)では、政府の交渉官(国を代表して他国と交渉を行う役人)たちが議論する政府側の場所と民間のパビリオンは別の場所になっていて、タクシーで10分くらい離れていましたね。
末吉 そのような地理的な状況でしたが、なぜか米国の民間パビリオンだけは政府側会場に近い場所(隣接するテント)にありました(図1)。
図1 COP23会場の米国パビリオンの様子
「WE ARE STILL IN」(アメリカの約束)を掲げた大々的なキャンペーンは注目を集めた
出所 https://www.youtube.com/watch?v=gXyFW9_EJ_U
https://www.wwf.or.jp/activities/2017/11/1394615.html
図2 「America’s Pledge」(アメリカの約束) の表紙
※Phase1Report、総ページ数124、America’s Pledgeプロジェクト発行
出所 America’s Pledge team
そこには、米国トランプ大統領のパリ協定離脱宣言から3日後に設立された、「WE ARE STILL IN」(我々はまだパリ協定の中にいる)という「非国家アクター」(政府以外の組織)として結集したイニシアティブ(自発的な団体)が参加していました。そのイニシアティブは、「アメリカの約束」(America’s Pledge、図2)」を前面に出してアピールしていました。
このイニシアティブへの参加メンバーは、表1に示すように、参加人数が日本の人口並みに達し、主要な自治体(ニューヨーク州やカリフォルニア州など)や企業が名を連ねていました。トランプ大統領がCOP21からの離脱宣言をしても、米国の中枢部はパリ協定にとどまり、「非国家アクターの力を結集して、すでにCO2削減目標の50%を達成している」とその実績を具体的に発表(2017年11月11日)しました。そして、2018年には、より詳細な第2次報告書を出すことを表明したのです。
表1 「WE ARE STILL IN」(我々はまだパリ協定の中にいる)のプロフィール
※America’s Pledge(アメリカの約束)
出所 WWF(World Wide Fund for Nature:世界自然保護基金)のHPをもとに編集部で作成
石田 米国は活気がありましたね。先ほど日本は責められていると申しましたが、それは文化の違いもあります。日本人には、暗黙の了解で物事が進むようなところがあります。これは同一民族で同一文化という背景があるからです。
しかし、海外の場合は、民族も宗教も多様なので「目標(ゴール)を設定するということは、その実現に向かって進むという意味だ」となるわけです。日本の場合には「途中何があっても目標をクリアさえすればいい」という感じとなり、この点は大きな違いとなっています。
末吉 確かに、海外の人には、日本の文化は理解しにくいところがありますね。しかし、誤解が生じないようにする努力も大切です。
石田 例えば、今、火力発電のCO2削減に向けてCCS注3(二酸化炭素回収・貯留技術)が注目され、CCSの新しい技術を開発することが重要だと言われています注4。しかし、海外では、「今後は化石燃料から再生可能エネルギー(以下、再エネ)に移行するのはわかっているのに、なぜ古い技術に投資するのか。ムダになるのではないか」と言われます。日本の取っている行動が、彼らには理解できないのです。
もちろん日本には立地や気候に加えて電力系統の制約があって、再エネはコストがまだ高い。一方、海外を見ると、例えば砂漠の太陽光発電は、3円/kWhを切るプロジェクトも出てきているので、再エネのほうが安いのです。ですからRE100注5に加盟している企業も、ビジネスとして再エネを選択するのは当然だと思っています。すなわち、環境のことよりもビジネスとして再エネを選択しているという話なのです。このようなことは、現地に行ってみないとわからないことですね。
─編集部:日本から、COP23には何社くらい参加したのですか。
石田 当社は、JCLP注6に同行して参加しましたが、JCLPは当社を含めて12社です。それ以外の日本企業は、ほとんど見かけませんでした。
▼ 注1
COP21の約束の実行にむけ「ゼロエネルギー住宅」を住宅の80%へ家庭部門CO2削減を加速
▼ 注2
COP21:Twenty-first session of the Conference of the Parties(COP)、国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(開催日:2015年11月30日〜12月13日)。2020年以降の気候変動に対応する国際的な法的枠組み(同2015年12月12日)。
COP22:モロッコ・マラケシュ(同2016年11月7日〜18日)、COP23:ドイツ・ボン(同2017年11月6日〜17日)。
▼ 注3
CCS:Carbon dioxide Capture and Storage
▼ 注4
環境省「国内外のCCS Readyに関する取組状況等について」の公表について等
▼ 注5
RE100:Renewable Energy 100、再生可能エネルギー100%推進イニシアティブ。事業運営を100%再生可能エネルギーで調達することを目標。設立は2014年9月、加盟数は119社(2018年1月現在)。http://there100.org/
▼ 注6
JCLP:Japan-CLP、Japan Climate Leaders’ Partnership。気候変動を経営の最重要課題の1つとして捉える先進企業5社(イオン、東京海上日動火災保険、富士通、三菱東京UFJ銀行、リコー)によって設立された「日本気候リーダーズ・パートナーシップ」(2009年7月設立)。英国の非営利組織クライメイト・グループ(The Climate Group)とのパートナーシップ(2017年4月に締結)のもと、国際ビジネスイニシアティブである「RE100、EP100、EV100」に関心のある日本企業の参加支援を目指す、日本独自のグループ。加盟数は45社(2018年1月現在)。
https://japan-clp.jp/index.php/japan-clp