日本における統合的設計の事例
次に、日本における統合的設計によるオフィスビルの事例を見てみよう。
〔1〕JR京都駅前のローム本社ビル
JR京都駅前に位置する半導体メーカーのローム(ROHM)本社ビルは、1977年に竣工したが、33年後の2010年に全面リニューアル(改修)を完了した注9。
この改修にあたっての課題は、先端半導体企業のイメージに合致した外装への更新、耐震改修、オフィスの居住性の向上およびグリーンビルディング(CO2の削減)化への対応をすることであった。
図3に、リニューアル前とリニューアル後のエネルギー消費量を示す。窓をスーパーウィンドウにしなくても、エネルギー消費量を44%減(計画:33%減)と大幅に削減することに成功し、投資コストの回収期間は2年で済んだ。
図3 京都駅前のローム本社ビルの例
出所 エイモリー・B・ロビンス、「抜本的な効率化・低コスト化のための統合的設計」、2018年10月5日
〔2〕千葉市の竹中工務店 東関東支店
千葉県千葉市に、2003年に竣工した竹中工務店の東関東支店(図4)の2階建てのオフィスビル(延床面積:1,318m²)は、12年後の2015年に、ZEB化の改修を開始し、2016年3月に完成した注10。
同ビルの最新の一次エネルギー消費原単位(EUI:Energy Use Intensity)は、LED照明や照明制御(-12%)をはじめ、地熱や太陽熱・天井放射(-21%)の利用、さらにプラグの負荷軽減や機能の集約(-20%)などによって348MJ/m²-yまで削減された。従来の約1,400MJ/m²-yから約75%もの低減に成功し、今ではポジティブ・エネルギー・ビルとなっている。
図4 ZEB化を目指して75%の省エネを実現した竹中工務店 東関東支店
中小規模のオフィスビルは、日本国内のビルの約80%を占める。
出所 エイモリー・B・ロビンス、「抜本的な効率化・低コスト化のための統合的設計」、2018年10月5日
新基準を採択した米国カリフォルニア州の取り組みと事例
〔1〕米国政府の新築住宅への太陽光発電システム設置の新基準
2012年、パッカード財団本部は、カリフォルニア州のロス・アルトスに引っ越し、ここにオフィスを新築した。当時はソーラーパネルが現在よりも高額であったが、同社の新オフィスでは、通常よりも3分の2も少ないソーラーパネルの設置で済んだ。これは、図5の右側に示すように、FAXやコピー機などのオフィス機器あるいは作業用の照明、ノートパソコン、サーバのほか、エレベータなども含めて、全体の機器(負荷)の仕様を慎重に評価し直した結果、58%もエネルギー消費を抑えることができたからである。
図5 58%の省エネを実現した米国カリフォルニア州のパッカード財団本部
出所 エイモリー・B・ロビンス、「抜本的な効率化・低コスト化のための統合的設計」、2018年10月5日
米国カリフォルニア州政府は、2020年までに新築住宅の100%、2030年までに新築商用ビルの100%と既存商用ビルの50%をZEBにする目標を掲げている。このような流れの中で、米国カリフォルニア州エネルギー委員会は、2018年5月9日、新築住宅におけるエネルギー使用を50%以上削減するため、2019年建築エネルギー効率基準を採択した注11。新たな基準は2020年1月1日から施行される。
この新基準は、全米で初めて新築住宅への太陽光発電システムの設置を義務付けたことなどが注目されている。
〔2〕日本におけるZEBの定義
日本でもZEB化の動きが活発化している。ここで参考として、簡単に日本におけるZEBの定義(図6)を紹介しておこう。
ZEBとは、50%以上省エネ(ZEB Ready)を満たしたうえで、太陽光発電などによってエネルギーを創ることによって、正味でゼロ・エネルギーを目指すこと(前述の「注 7」ZEB参照)とされている。
日本のエネルギー基本計画(2014年4月11日閣議決定、2018年7月3日閣議決定)では、2020年までに新築住宅・建築物について、段階的に省エネルギー基準の適合を義務化する。具体的には、建築物については、2020年までに新築公共建築物などで、2030年までに新築建築物の平均で、ZEBを実現することを目指している。
一部考慮すべきケースはあるが、基本的にで75%以上省エネを達成したものをNearly ZEB、100%以上省エネを達成したものをZEBと呼んでいる。
▼ 注9
設計施工:竹中工務店、延床面積:9,461平方メートル、構造/規模:鉄筋コンクリート造/地下2階、地上9階
▼ 注10
建築地:千葉県千葉市中央区中央港1-17-2、延床面積1,318m2、2階建て
既存竣工:2003年、改修工期:2015年10月〜2016年3月
http://www.takenaka.co.jp/zeb/02/
▼ 注11
https://www.jetro.go.jp/biznews/2018/05/5f23015fc305be72.html
https://www.energy.ca.gov/releases/2018_releases/2018-05-09_building_standards_adopted_nr.html