各種VPPサーバの連携
〔1〕統合サーバ(ACサーバ)とリソースサーバ(RAサーバ)
VPPサーバには、①統合サーバ〔アグリゲーションコーディネーター(AC)サーバ。以前の親サーバ)や、②リソースアグリゲーター(RA)サーバ(以前の子サーバ)などがあるが、次に、これらのVPPサーバの役割を見てみよう。
図2左に示す【主プロジェクト】の統合サーバ(ACサーバ)は、下位の大型蓄電池サーバ(富士電機)やEVPSサーバ(住友電工)、EQサーバ(住友電工/日本ユニシス〕などのRAサーバと接続され、各リソースを制御する。
さらに、統合サーバは、図2右に示す【関連プロジェクト】の各リソースとも連携させている。例えば、NTTスマイルエナジーに設置された家庭用蓄電池やエネゲートのHEMSやEV、EQ、蓄電池、エアコンなどは、この統合サーバとインターネットで接続され制御される。これらがVPPの特徴的な仕組みとなっている。
2017年度の実証では、図2に示すVPPシステムで、1年かけて電源I-bの実証が行われた。電源I-bとは、電力の需給バランス調整に活用できる電源等(周波数調整機能をもたない電源)、すなわち、数分程度の調整時間(応動時間)がかかる電源のことである。VPP構築実証事業では、実際にこの電源1-bが、5分以内に反応して概ね「上げDR」(電気の需要量を増やしてください)、「下げDR」(電気の需要量を減らしてください)が可能であることが確認された。
〔2〕通信仕様「OpenADR 2.0b」とセキュリティ
VPPシステムにおける統合サーバ(ACサーバ)とリソースサーバ(RAサーバ)の間や、リソースサーバとGW/EMS(ゲートウェイ/エネルギー管理システム)間には、OpenADR 2.0b(図3参照)という電力の需給制御用の通信プロトコルが採用されている。
図3 VPPシステムにおける通信仕様とセキュリティ
OpenADR2.0b:Open Automated Demand Response Vetsion2.0b、電力の需給制御用プロトコルのバージョン2.0b(広く普及しているバージョン)。OpenADRアライアンスで策定された
MQTT:MQ Telemetry Transport(以前は、Message Queing Telemetry Transportと言われていた)。IoT通信などに適したシンプルで軽量な通信プロトコル。IBMとユーロテックで開発され、OASIS(情報交換用技術標準を作成する国際的な団体)で標準化が行われている
Modbus:米国Modicon社が開発した産業機器向けのオープンな通信用プロトコル
ECHONET Lite:エコーネットコンソーシアムで策定されたホームネットワーク用の通信プロトコル
FL-net:FAコントロールネットワーク。日本電機工業会(JEMA)によって産業用に策定された制御装置用のプロトコル
出所 関西電力資料
OpenADR 2.0bによって、リソースアグリゲーターが契約した需要者側に対して「上げDR」「下げDR」などを指令する信号が出されて、通信が行われている。
また、GW/EMSと需要家側のリソース間には、家庭用にECHONET Liteや業務用にModbus/TCP(図3参照)などの通信仕様が採用されている。さらに、VPPシステム全体のサイバーセキュリティ対策として、相互認証・暗号化が実施されている。
VPPシステムとEVの車両情報を連携させる実証を開始
このようなVPP構築実証事業が進展する中で、全世界的にEVの急速な普及が予測されているため、最近では「EVを『発電所』に」という新聞記事の見出しが登場したり、EVは比較的大容量の蓄電池を搭載して走行しているところから、『走る送電線』とまで呼ばれたりするようになってきた。
〔1〕VPPとEV車両情報を連携する実験を開始
こうした背景から、関西電力、住友電気工業および日産自動車の3社は、VPPシステムとEVの車両情報を連携する本格的な充電遠隔制御実験を、新たなVPP構築実証事業の一環として2018年1月11日から開始した。
この実証実験は、図4に示すVPPサーバが、車両情報を記録・蓄積するテレマティクスサーバ注3と連携させることによって得られるEVの車両情報をもとに、バッテリーの充電可能量(現在、どれくらい充電が可能かなど)を把握し、電力調整を目的として、充電を遠隔制御する実験である。
図4 電気自動車(EV)の充電遠隔制御の実験システム構成
出所 関西電力資料 参考サイト
同実証試験では、EVを運輸部門に導入することによって低炭素化が可能となること、さらにV2Hなどによって電力の安定供給が実現可能なことなども実証されている。
〔2〕EV/PHV60台をEVスイッチで制御
すでに、「関西VPPプロジェクト」では、EVおよびプラグインハイブリッド車(PHV)をエネルギーリソースとして活用する取り組みが行われているが、今回は、関西電力の事業所や一般家庭にあるEV/PHV計60台(事業用車両42台、通信車両10台、一般家庭8台)に対して、新たに開発したEVスイッチ注4を導入し充電を遠隔制御する、全国で初めての取り組みとなっている。
具体的には、図4に示すように、次のような実運用を想定した実験が行われている。
- ①関西電力のVPPサーバ(取引先から電力調整依頼を受け、調整を行う統合サーバ=ACサーバ)と②住友電工のEVサーバ(VPPサーバから指令を受け、EVおよびPHVの充電を制御するリソースサーバ=RAサーバ)が、③日産自動車のテレマティクスサーバ(EVから車両情報を取得するサーバ)と連携することで得られるEVの車両情報をもとに、
- 充電による電力調整可能量を把握して、
- EVスイッチによって日産自動車製EV(LEAF)の充電を遠隔制御する。
- ユーザーに対しては、EV使用の参加・不参加を確認するためにスマートフォンアプリを活用する。
この実証実験を通して、EVの利用方法や制御データなどを分析し、VPPのエネルギーリソースとしての評価が行われている。
▼ 注3
テレマティクスサーバ:自動車の電池の充電状態・放電状態(あと何kWhくらいの充電が可能か等)の情報や、今自動車がどこにいるかという位置情報、今ブレーキをかけた、今右に回ったというような車両情報を記録・蓄積するサーバ。インターネット上に設置されたドライブレコーダーのようなもの。
▼ 注4
EVスイッチ:関西電力および住友電工が開発したEVおよびPHVの充電を、必要に応じて遠隔制御する機器で、多様な車両に対応しているもの。電池の状況を見て、今、「充電できる」「充電できない」などを判断するスイッチ。