[【創刊6周年記念】 発送電分離直前! 次世代の電力システムはどうあるべきか]

ビジネスフェーズに突入した日本のVPP(前編)

― 低炭素社会へ向けてV2Gアグリゲーター事業を新設 ―
2018/12/01
(土)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

「第5次エネルギー基本計画」が発表されて以降、再生エネルギー(再エネ)の主力電源化の動きとVPP(Virtual Power Plant、仮想発電所)への期待が急速に高まっている。この背景には、SDGsやパリ協定の実現に向けた、国際的な低炭素社会への大きな流れがある。VPP構築実証事業も現在3年目を迎えているが、実証フェーズからビジネスフェーズへの展開が活発化してきた。
ここでは、創刊6周年記念特集として、VPPの原点に戻って具体的な目標を確認し、新予算も含めて見直しが行われたVPP実証事業と最新動向や課題について、前後編に渡って整理していく。
なお、本稿は、関西電力株式会社 営業本部 担当部長 西村 陽(にしむら きよし)氏への取材をベースにまとめたものである。

再エネの主力電源化をめざす第5次エネルギー基本計画

 2011年の東日本大震災後、日本の電力システムは、大規模火力発電などの集中型電源に依存してきたエネルギー供給システムからの脱却を図っており、急速に普及している太陽光発電や風力発電などの再エネ(分散型電源)を安定的、かつ有効に活用することが喫緊の課題となっている。

 このため、2018年7月に閣議決定された「第5次エネルギー基本計画」注1においても、今後、経済的に自立した再エネについて、日本の主力電源化を目指すことが示された。

 また、今後、脱炭素化に向けて、国際的にも普及拡大が見込まれる電気自動車(EV)の蓄電池の容量は、家庭用の蓄電池よりも大きいことから、1つの社会的なエネルギーリソース(エネルギー資源)として注目され、電力システムの需給バランス調整(DR)用としての活用が期待されるようになってきた。

〔1〕VPP構築実証事業の新しい展開

 こうした状況に対応するため、2016年度から経済産業省が推進しているVPP(図1)の構築実証事業が新たな展開を見せている。VPPは、一般家庭や企業などの需要家側のエネルギーリソース(蓄電池やEV、発電設備、デマンドレスポンスなど)を、IoT技術を駆使することによって遠隔から統合制御し、あたかも1つの発電所のように機能させ、電力の需給調整力としても活用する技術である。

 すでに2016年度から3年目を迎えているVPP構築実証事業では、新たにIoT技術などを用いて、

  1. 系統電力の周波数調整などのより高度な統合制御に関する技術実証や、エネルギーリソースの遠隔制御
  2. EVから電力系統に充放電し、電力を需給調整する技術(V2G)の構築
  3. 中古車載用の蓄電池を定置用等蓄電池にリユース(再利用)する可能性の検証

などが取り組まれ、さらに需要家側の省エネルギー・電力の負荷平準化、再エネの導入の拡大、系統安定化やコストの低減をめざした実証が活発化している。

〔2〕VPP(バーチャルパワープラント)とは

 VPPとは、前述したように、住宅やビル、工場などの需要家側に設置されている太陽光発電、蓄電池、電気自動車、ヒートポンプ、給湯器(エコキュート)、照明、空調、自家発電設備、コージェネレーションシステム(CGS)など、多様な場所に散在するエネルギーリソースを、IoTによって遠隔制御することによって、電力を束ねて創出し、既存の集中型発電所と同等の機能を提供する新しい電力システムだ(図2)。

図2 VPPのイメージ:推進役はアグリゲーションコーディネーターとリソースアグリゲーター

図2 VPPのイメージ:推進役はアグリゲーションコーディネーターとリソースアグリゲーター

アグリゲーションコーディネーター:Aggregation Coordinator(AC)
リソースアグリゲーター:Resource Aggregator(RA)
http://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/advanced_systems/vpp_dr/about.html

 これによって、電力消費のピーク時の調整力(従来は火力発電所などで調整していた)としても活用できるようになる。

 ここで調整力とは、一般送配電事業者の指令に基づいて、そのエリア内の電力の需要と供給のバランスを調整する電力のことである(例えば真夏日などの電力ピーク時でも、電力の需要と供給を一致させる必要がある)。その調整のために利用される前述した各エネルギーリソースは、束ねられて「調整力」となり、現状では、公募によって調達されることとなっている。その一例が、デマンドレスポンス(DR:Demand Response、電力の需要側応答)と呼ばれる仕組みである。

 その調整力を具体的に創出するVPPビジネスの推進役は、図2に示す、アグリゲーションコーディネーター(AC:Aggregation Coodinator)とリソースアグリゲーター(RA:Resource Aggregator)という2層のプレイヤーである。リソースアグリゲーターは、住宅や工場などの需要家とVPPサービス契約を直接締結して、リソース制御を行う事業者であり、アグリゲーションコーディネーターは、リソースアグリゲーターが制御した電力を束ね、一般送配電事業者(系統運用者)や小売電気事業者、再エネ発電事業者と直接電力取引を行う事業者のことである。


▼ 注1
http://www.meti.go.jp/press/2018/07/20180703001/20180703001-1.pdf

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