[【創刊6周年記念】 発送電分離直前! 次世代の電力システムはどうあるべきか]

ビジネスフェーズに突入した日本のVPP(後編)

― VPPとEV車両情報を連携させる最新の関西VPPプロジェクト ―
2019/01/08
(火)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

VPPを新しい調整力としてマネタイズ

〔1〕4つのマネタイズモデル

 VPPプロジェクトは、当初、再エネの余剰電力を吸収し有効活用するというイメージでスタートしたが、2017年以降は、次第に、VPPを新しい調整力(本誌12月号の前編を参照)として活用する、さらに「マネタイズ」(収益化する)という考え方が強くなってきた。

 このVPPのマネタイズについては、図5に示す4つのマネタイズモデルがあると言われている。

図5 VPPの当初のマネタイズの目論見〜需給調整市場の重要性〜

図5 VPPの当初のマネタイズの目論見〜需給調整市場の重要性〜

出所 関西電力資料

  1. VPP事業者:系統運用者などが調整力を確保したり、電力品質を維持するため、需要者側のリソースを束ねて(アグリゲートして)調整力を創出し、系統運用者などと直接電力の取引を行うビジネスが可能となる。
  2. 小売事業者:顧客サービスや電源の調達などができ、インバランス(小売事業者等が計画した需要量と実際の需要量の差分)の発生を回避させるビジネスが可能となる。
  3. 再エネ事業者:VPP事業者とVPP契約することによって発電を継続させるビジネスが可能になる(しかし、最近の例に見るように、実際には九州電力で発生した出力抑制の問題など、制度的に難しい面もある)。
  4. 需要家・コミュニティー:VPP事業者と契約して、エネルギーコストの削減、環境負荷の低減(無駄な電力の抑制)、再エネの有効活用などのビジネスが可能となる。

 現状では、このマネタイズモデルのうち、実際のビジネス(収入)は系統運用者からのものが中心となっている。

〔2〕系統運用者が調整力に対して支払う仕様の枠組み

 次に、系統運用者が下位のアグリゲーション・コーディネーターから提供される電力資源(調整力)に対して支払う仕様(調整力の種類によって金額が異なる)の枠組みを表2に示す。

表2 日本の調整力募集の仕様内容

表2 日本の調整力募集の仕様内容

GF:Governor Free、ガバナフリー。LFCでは追従できないような負荷変動(数秒から数分程度の周期)や需給ミスマッチ(電源脱落等)への対応
LFC:Load Frequency Control、負荷周波数制御。需要予測が困難な負荷変動(数分から十数分程度の周期)や需給ミスマッチへの対応(追随制御)
EDC:Economic load Dispatching Control、経済負荷配分制御。比較的長時間の負荷変動(十数分から数時間程度の周期)に対応(需要予測に合わせ、先行的に制御)
出所 EA国際シンポジウム(2018.6.22)Kiyoshi Nishimura資料作成。

 表2に示すように、調整力の応動時間は、一次調整力が10秒以内と最も速く(調達価格が最も高い)、次いで二次調整力の5分以内、最も遅い三次調整力は15〜45分となっている。表2の下段に示す「現在のVPP」は、主に三次調整力(45分以内、調達価格が最も低い)となっている。

 このため、制御の反応をスピードアップさせ、もっと調整力からの収入が上がるよう挑戦が続けられている。

〔3〕VPPマネタイズを加速する条件

 今後、VPPを現実のビジネスとし、マネタイズを加速するには、次のようなことが条件として挙げられている。

  1. 可能であれば、現状の数万kWレベルから、数百万kWレベルまで、リソースを拡大すること。
  2. (1)を実現するには、IoT関連技術や、蓄電池とEVなどのリソースの抜本的なコストダウンが必要であること。
  3. VPPプラットフォーム(各種アグリゲーターのサーバなど)を高速化信頼性の向上させること。
  4. (3)を、需給調整市場をはじめとする制度設計に反映させること。
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