電力自由化とデマンドレスポンス
これからの電力供給システムやその事業形態を考えるうえで重要な動きは、さらなる電力自由化と、需要側(消費者)への積極的な働きかけによる「需要家の電力システム運用への参加」である。
自家発電としての太陽光発電や風力発電などの分散型電源(マイクログリッド)、および電気自動車(EV)の普及などに加えて、電力の小売自由化に伴ってどのようなエネルギーを選択するかという消費者側の意識の変化も、その動きの背景の一部である。
さらに、グローバルな動きとして、エネルギーの利用および生産における低炭素化の実現とそのビジネス化がある。
また、これらを推進する技術進歩としては、電力取引やスマートなエネルギーマネジメントシステムを支える情報通信技術(ICT)や、蓄電池の分野における二次電池注1のエネルギー貯蔵技術の進展がある。
〔1〕電力自由化の経緯
そもそも電力の自由化は、1990年代以降、分散型電源の普及などによって、発電における規模の経済が減少し、遠隔電源を結ぶ電力ネットワークも併せた「企業レベルの規模の経済」も飽和してきたため、電気事業法による規制の理論的な根拠の一部が失われことに始まる。
まず、発電分野(卸売り市場)への競争の導入によって電気料金の低下が期待されたため、そこからスタートすることになった。実際、1995年の電気事業法改正のもとに、IPP(Independent Power Producer、独立発電事業者)が参入し、これによって電力の卸供給分野が自由化され、発電コストが低下した。
さらに、2000年以降、大口需要家から小売の部分自由化が始まり、その拡大によって、電力の価格競争が進み、新規の小売事業者(PPS:Power Producer and Supplier、特定規模電気事業者。いわゆる「新電力」)が増加してきた(2014年10月10日現在:378社)。特に、2011年3月11日の東日本大震災以降、一般電気事業者注2の供給不足によって、新電力は、電力価格面のみならず、発電量という点から見ても大きなインパクトをもち始めている。
〔2〕国内外で注目されるデマンドレスポンス
このような背景のもと、電力の小売競争に勝ち抜くために、新たな顧客サービスとしてデマンドレスポンス(電力の需給調整)に関するメニューも注目されるようになってきた。
こうした我が国の競争導入の状況に先行して、欧米でも、需要側と協調して、電力システムを効率的に運用するため、エネルギーミックス注3の中に、需要家側が発電する電力「需要側資源」(Demand-Side Resource)を位置づける動きがある注4。
そこで、本稿では、電力の自由化とデマンドレスポンスに関する国内外の動向を解説する。
▼ 注1
二次電池は、電気を蓄えることができる電池である。例として、リチウムイオン電池や鉛蓄電池(バッテリー)が普及しているが、ニッケル水素電池も一定のシェアを確保している。
▼ 注2
一般電気事業者とは、北海道電力、東北電力、東京電力、中部電力、北陸電力、関西電力、中国電力、四国電力、九州電力、沖縄電力の計10社の電力会社を指す。
▼ 注3
エネルギーの供給に関して、単一のエネルギー源に依存するのではなく、火力・水力・原子力・自然エネルギーによる発電をバランスよく組み合わせることを指す。電力供給側の要素だけではなく、需要側のエネルギーについても、節電量(ネガワット)を供給できる電力と捉え、エネルギーミックスの1つの要素として加える動きもある。
▼ 注4
[参考文献]浅野浩志、「電気料金による電力需要の調整と市場機能による需給調整」、電気評論、2012年11月