活気づくIECの組織構成
〔1〕SMBの下のSG(戦略グループ)とTC(専門委員会)
電気および電子技術分野の標準規格の策定を行うIEC(International Electro-technical Commission、国際電気標準会議)は、1906年に設立(本部:スイス・ジュネーブ)され、2014年10月現在、世界83カ国(会員)が参加する国際標準化機関である。
図1に示すように、IECの下には標準管理評議会(SMB:Standardization Mana-gement Board)、さらに専門委員会(TC:Tech-nical Committee)と戦略グループ(SG:Stra-tegic Group、戦略グループ)があり、スマートグリッドに関して、さまざまな標準化や検討が行われている。
〔2〕8つのSG(戦略グループ)
まずSMBでは、戦略グループ(SG)や専門委員会(TC)の設置や改廃、幹事国の割り当ておよび議長の任命、業務の調整などが行われる。戦略グループ(SG)は、複数のTCにまたがるか、既存のTCには該当しない新しい標準化テーマを推進する目的でSMBの下部に一時的に設置される組織である。これまでSG1〜SG8の8つが設置されてきたが、現在はSG4とSG6〜SG8が活動している。
表1に示すようにSG1〜SG3はその役割を終えたが、SG3では、スマートグリッド技術についての標準化戦略が検討され、スマートグリッド・システムのインターオペラビリティ(相互接続性)を実現するためのフレームワーク「IEC Smart Grid Standardization Roadmap」なども策定された。SG3は、現在はSEG2へと発展し、実用化に向けた検討が行われている。
表1 IEC SMB内の各SG〔Strategic Group(戦略グループ)の活動〕
〔出所 日本規格協会IEC活動推進会議「IEC 事業概要−2014年版−」2014年5月1日、http://www.iecapc.jp/documents/gaiyou/2014_gaiyou_ippan.pdf、http://www.iec.ch/tcnews/2014/tcnews_0214.htmを元に作成〕
一方、2014年6月に新たに設置されたSG8では、国際的に広がるM2M/IoTの波を反映し、欧州(ドイツ政府が提唱)が推進する第4次産業革命(Industry 4.0)に関するスマートマニュファクチャリングの標準化戦略などの検討も開始され、注目を集めている。
〔3〕スマートグリッドの標準はTC 57が担当
前出の図1に、スマートグリッドに関連する代表的なTC(専門委員会)を紹介した。一部その役割を終えたTCもあるが、これまで120を超えるTCが設立され活動している。スマートグリッドの標準は、主に電力関係の情報・通信分野をTC 57(第57専門委員会)が担当している。日本ではTC 57に関する国内委員会が活動しており、その中にスマートグリッドの標準関係の作業部会が定期的に開催されている。
図1 IECにおけるスマートグリッド関連の標準化
〔出所 『インプレスSmartGridニューズレター』(2014年9月号)を一部修正して作成、http://www.iec.ch/dyn/www/f?p=103:48:0::::FSP_ORG_ID,FSP_LANG_ID:3228,25#4〕
また、IECとISOの共同技術委員会であるJTC1(Joint Technical Committee、合同技術委員会)においても、スマートグリッドの特別ワーキンググループが設置され活動している。
以降、スマートグリッドを実現するうえで重要となっている、IEC TC 57の標準活動を中心に解説していく。
IECでは100以上の標準を策定
表2 IECのスマートグリッドに関連する標準のグループ代表番号
〔出所 IEC Webサイト「Core IEC Standards」、http://www.iec.ch/smartgrid/standards/〕
IECにおいては、表2に示すように、スマートグリッド関する中核的な標準は、7つのグループ(IEC/TR 62357〜IEC 61508)に分けられ、すでに100以上もの標準が策定されている。
その推進役のひとつでもあるIEC TC 57注2は、今から50年前の1964年に設立され、電力システムの情報・通信に関する国際標準の策定を行ってきた。その具体的な標準化の対象は、発電や電力システムの運用から、電力市場および送電・配電などに及び、それらに対応したスマートグリッド関連の標準を多数策定してきた。そのTC 57内には、具体的にスマートグリッドに関連する標準を策定する作業グループ(WG:Working Group)として、現在、表3に示す12のWG(Working Group)が活動している。
表3 IEC TC 57における各WGの主な標準化活動の内容
スマートグリッドに関するNISTとIECの関係
ここまで、IECのスマートグリッドに関する標準組織を中心に解説してきた。一方、米国のNIST(米国国立標準技術研究所)注3のスマートグリッドに関する取り組みについても、注目されるところである。
以降は、NISTについて見てみよう。
〔1〕最新版「NISTリリース3.0」を発表
このNISTが、2010年1月に発表したNISTリリース1.0(ドラフト版は2009年9月)である“NIST Framework and Roadmap for Smart Grid Interoperability Stan-dards Release 1.0”注4は、スマートグリッドの概念参照モデルから相互接続性に至る広範囲なスマートグリッドのロードマップを発表し、国際的に大きな影響を与えた。その後、2012年2月にリリース2.0が、さらに2014年9月には、最新版のNISTリリース3.0が発表された。
〔2〕NISTの7つの領域(ドメイン)
NISTでは、スマートグリッドの「概念参照モデル」を開発するにあたり、図2に示すように、スマートグリッドを7つの領域、すなわち「市場、運用、サービスプロバイダ、発電、送電、配電、需要家(消費者)」の領域(ドメイン)に分け、各ドメイン間の「通信の流れと電力の流れ」を整理した。これをベースにNISTでは、スマートグリッドの「概念参照モデル」(コンセプトモデル)が策定された。これが図3に示すスマートグリッドの「概念参照モデル」である。
図2 NISTによるスマートグリッドの7つの領域〔各領域(ドメイン)間の通信と電力の流れ〕
〔出所 「台頭する新世代のスマートグリッドと新国際標準」2014年1月刊、インプレスビジネスメディア〕
図3 NISTリリース3.0におけるスマートグリッドの「概念参照モデル」
〔出所 NIST Framework and Roadmap for Smart Grid Interoperability Standards,Release 3.0、2014年9月。Figure 5-7. Logical Model of Legacy Systems Mapped onto Conceptual Domains for Smart Grid Information Networks、http://www.nist.gov/smartgrid/upload/NIST-SP-1108r3.pdf〕
▼ 注1
2014年1月に、野村淳二氏(パナソニック顧問)がIEC会長(任期:2014〜2016年)に就任した。また2014年11月4〜15日には、IEC東京大会の開催が予定されている(http://www.2014iectokyo.jp/)。
▼ 注2
IEC TC 57:第57専門委員会、「Power systems mana-gement and associated information exchange」(電力システム管理と関連する情報交換に関する標準の策定)、http://www.iec.ch/cgi-bin/getfile.pl/sbp_57.pdf?dir=sbp&format=pdf&type=&file=57.pdf
▼ 注3
NIST:National Institute of Standards and Tech-nology、米国国立標準技術研究所。米国の商務省の傘下にあり、産業技術に関する規格の標準化を促進したり、政府の調達仕様の策定などを行っている政府機関(標準策定機関ではない)。
▼ 注4
「NISTのスマートグリッドの相互接続性に関するフレームワークとロードマップリリース1.0」。NISTリリース2.0ではリリース1.0 に分散電源(Ditributed Generation)が追加され、リリース3.0では、リリース2にさらに蓄電装置(Electric Storage)や電気自動車(蓄電池付き。Ele-ctric Vehicle)が追加された(図2中央の下段やや右の枠:Distribution Energy Resourceの部分)。