EPIC 2014で描かれた「未来」
〔1〕EPIC 2014:メディアの変遷
今から約10年前の2004年11月に、さまざまな議論を呼ぶ9分弱の動画(当時はFlashムービー)が公開された。それが「EPIC 2014」注1である。
この動画は、Museum of Media History(メディア史博物館)と呼ばれる架空の団体が2014年に公開したものだという設定で、1989年にティム・バーナーズ・リーがワールド・ワイド・ウェブ(WWW)を発明した時点から2014年までのメディアの変遷を紹介している。
ただし、この動画自体が公開された時期が2004年だということからわかるように、動画で紹介されている2004年以降の出来事は架空である。架空の出来事の登場人物として出てくる企業の中では、Appleの存在感はそこまで大きくはなく、逆にMicrosoftは急成長するGoogleに対抗する存在として描かれており、この動画が作成された2004年という時代の様相を反映している。
〔2〕Googlezon(グーグルゾン)
そして、その強者Microsoftに対抗する存在として、2008年にはGoogleとAmazonが合併し、Googlezon(グーグルゾン)という企業が誕生するという未来が描かれているのも興味深い。
Googlezonは、Googleの検索技術とAmazonのレコメンデーションエンジンを統合した強力なインフラを提供し、ユーザーの属性情報や消費行動などのあらゆるデータを把握することで、コンテンツや広告を完全にカスタマイズされた状況でユーザーに届けることになるとしている。
その後、既存のメディアの象徴としてニューヨークタイムズとGooglezonの争いなどが紹介され、この動画の最終地点である2014年の3月9日には、GooglezonがEPICを公開するというストーリーになっている(図1)。
図1 EPIC 2014中のEPIC解説部分
〔出所:YouTube のEPIC 2014 日本語字幕版 (Googlezon EPIC 2004年の未来予想) 、https://www.youtube.com/watch?v=Afdxq84OYIU〕
EPICとは、Evolving Personalized Infor-mation Constructの略語であり、YouTubeの日本語字幕では「進化型パーソナライズ情報構築網」となっている。EPICによって、それぞれのユーザー向けにカスタマイズされた情報が届けられるようになる未来を表している。
すでにこの動画の内容を検証できる「未来」に生きている私たちから見ると、FacebookなどのSNSの興隆やモバイルデバイスの普及など、重要な要素が欠けている点は気になるものの、これだけ動きの速い技術動向を中心とした未来予測としては、その慧眼に目を見張る内容だろう。
Apple、Google、Amazonそれぞれが目指すもの
前置きが長くなってしまったが、本誌の2014年7月号ではAppleのHomeKitを紹介し、8月号ではGoogleとNest Labsの最新動向から、両社のスマートハウス分野への狙いを分析してきた。
現在では、強力なライバルとして紹介されることが多いAppleとGoogleだが、スマートハウスの分野において、両社が重点を置いている部分は必ずしも同じではない。
〔1〕端末販売に注力するApple
2014年9月には、Appleから従来のバージョンに比べてサイズが大きくなったiPhone 6と、さらにサイズが大きいiPhone 6 Plus、そして、以前から噂をされていたウェアラブル端末であるApple Watchと呼ばれるスマートウォッチが発表され、話題を呼んでいる。このような新たな製品発表からもわかるように、Appleは、iCloudと呼ばれるクラウドサービスや、HomeKitと呼ばれるソリューションも提供はしているものの、あくまで端末を販売することに注力している企業である。
〔2〕プラットフォーマーの座を狙うGoogle
一方、Googleは、本誌2014年8月号掲載のNest Labsの記事でも紹介したように、Nest Developer Programなどによって同社のサーモスタットと連携するサービスを構築するためのAPIをしている。このことからも、Googleは、自社のプラットフォームを提供して、そのプラットフォーム上でさまざまなサービスを展開することに主眼を置いている。
このように、スマートハウス分野でしのぎを削っているライバルではあるものの、その戦い方を見ると、それぞれ元々の企業の強みや特徴が反映されたものになっている。
〔3〕Amazonのスマートハウスビジネスへの戦略
これら2つの企業に対して、Amazonはどこに主眼を置いてスマートハウスビジネスに取り組んでいる、あるいは今後取り組んでいくと予想できるだろうか。具体的な取り組みを見ていく前に、AppleやGoogleと同じように、そもそもAmazonがどのようなビジネスを展開しているのかを見ながら、同社が重点を置いている部分を整理してみよう。
Amazonのビジネスの現状
図2は、直近12カ月のAmazon全体の売上高をセグメントに分けて示したものである。
図2 Amazonの直近12カ月の売上内訳(単位は万ドル)
〔出所:2014年7月24日発表のIRプレゼンテーション資料(http://phx.corporate-ir.net/External.File?item=UGFyZW50SUQ9MjQzNzQ0fENoaWxkSUQ9LTF8VHlwZT0z&t=1)を元に著者作成〕
このセグメントに従って実際の売上高を見てみると、直近12カ月の売上高は全体で817億5,900万ドル(約8兆1,759億円;1ドル100円換算)となっており、前年同期比では22%の成長となっている。直近の12カ月の内訳を見ると、もっとも売上の割合が大きいのが「家電等」で、売上高は544億6,900万ドル(約5兆4,469億円)となっており、全体の67%を占めている。それに次ぐのが本などを含む「メディア」で、売上高は225億7,100万ドル(2兆2,571億円)、全体に占める割合は27%となっている。「その他」については、47億1,900万ドル(約4,719億円)の売上高で、全体の6%を占めている。
ここからわかるように、Amazonは売上の94%を物やサービスの販売に頼っているEC企業であり、その軸は1994年に本の販売から事業をスタートした当時から変わっていない。
しかし、同社が現在のような世界有数の企業になることができたのは、取り扱う商品ラインナップを増やし続けているからだけではない。現在のような巨大なECサイトを運営してきた経験を活かし、その処理能力をAWS(Amazon Web Services)として展開するという高い技術力と蓄積されたノウハウも、同社の強みの大きな部分となっている。
このように、クラウドなどの高い技術力に支えられたAmazonは、現時点では、AppleやGoogleほどわかりやすい形でスマートハウス分野のビジネスに取り組んでいるわけではない。ただし、ECという形で一般家庭との接点をもつAmazonの存在は決して無視できないものである。
そこで、ここからはAmazonのビジネスの軸を踏まえ、ECとクラウドという2つの側面からAmazonにおけるスマートハウスとの現在の接点を整理したうえで、今後の展望を予想していきたい。
▼ 注1
日本語字幕付きの動画はYouTubeで視聴できる。
https://www.youtube.com/watch?v=Afdxq84OYIU