5Gの「超高速通信」「大量接続」「低遅延性」
〔1〕スライシングによる最適化
5Gの特徴の1つとして「必要な機能(仕様)のネットワークを容易に組める」というものがある。必要な仕様のネットワークを作り出すことは「スライシング」と呼ばれる。4Gまでのネットワークが、常にフルスペックで提供されてきたのに対して、5Gでは過不足ない最適な仕様で提供される。
最初に実用化されるのは、高速性を前面に押し出したスライスになる。そして、2022年頃から、低遅延性を活かしたロボット操作や遠隔操縦が市場に現れる。
〔2〕機器の大量接続
5Gの特徴には大量接続もある。速度も遅延も厳しいことは言わずに多くの機器とつなぎたい、といった需要に対応する(写真4)。通信機器各社は、この分野は「スマートメーター」に適当としている。スマートメーターは無線方式も固まり、各国で展開が始まっている。それでもなお、5Gの利用を主張するところに、移動通信業界の自信が感じられる。
写真4 低遅延から高速性まで、さまざまな用途に対応する様子を示したボード
左端のテキストボックスに用途が例示されている〔上から、警察・消防(防災)無線、自動車、固定通信、工場(ロボット操作)、映像ストリーミング、スマートメーター〕。いずれも要求条件が大きく異なる。
出所 筆者撮影
もちろん、提案先はスマートメーターだけではない。あらゆるセンサーやモーターなどのアクチュエータ(駆動装置)への通信を無線化する。同様に、街灯も信号機も監視カメラも無線化に向かう。
これまで、確実につながる無線通信は高価なものだった。一方、有線通信は廉価であるが、敷設コストが高いものや、敷設自体が困難なものもあった。5Gで一気に通信コストが下がり、無線接続できるようになる。スマートシティに欠かせないインフラが5Gと言えるだろう。
〔3〕IoT/M2Mに対応できる低遅延性
MWCでの提案は、そのほとんどが「対機械」の通信であった。そして「機械対機械」(IoT/M2M)も多い。これを実現するのが、利用デバイスの近くにサーバを置き処理を行う「エッジコンピューティング」だ。5Gの低遅延性と、近距離にあることからくる低遅延性により、実時間性が高いIoT/M2M分野に対応できるとされている。
巨大市場が期待できる? もう1つの5G「自営5G」
〔1〕5Gを自営網として運用する
5Gは夢多いが、通信量が多いと利用料金も心配になってくる。前出の無線工場などでは、ロボットが腕を動かすたびにパケット料金が支払われることになるのだろうか。そうなると産業界では受け入れられないだろう。
この点について、通信機器業界は解決策を用意している。「自営網」と呼ばれる、企業ユーザーが自社の構内や敷地内に限って運用する通信システムだ(写真5)。こちらを指向した装置やサービス開発を強力に推進している。
写真5 露天掘り現場で建機メーカーのKOMATSUが自営網を構築したことを語るノキアのラジーブ・スリCEO
基地局メーカーなどは、自営網を次の攻略目標にしている。
出所 筆者撮影
自営網は、Wi-Fiのような免許不要帯域での利用とは異なり、国が自営用に割り当てた帯域を使う。日本における5G自営帯域の免許条件は未定だが、4Gでは自営が可能となっている。4G用の機材も販売されていることから、遠からず5Gも同様な動きが出るだろう。
〔2〕「自営網」の「網」の意味
1点注意が必要なのは「自営網」の「網」という表現に惑わされないことだ。構内に1つの基地局を置いて運用する場合も、自営網と呼ばれる。本来は、複数の基地局を結んで、別々の基地局覆域注2下の端末機(移動機)を結ぶものを呼んでいたのであろう。しかし、基地局1つで周辺へのサービスを行っても「網」の文字を付けて呼ばれている。
一方、この自営網方式が、1カ所の事業所なり工場なりをカバーするものとは限らない。離れた複数カ所の事業所に基地局を置きネットワークを築くことも考えられる。その場合、拠点間は通信事業者が提供する専用線サービスを利用する。自営と呼ぶが、決して通信事業者を飛び越えることを目的としたものではないのだ。
〔3〕巨大市場創出への期待
5G自営網が解禁されると、巨大市場が生まれる。企業などが、構内用に5Gを敷設する。また、工場内の棟ごとに自営網をもつことも考えられる。ノキアのラジーブ・スリ CEOは、「今後10年間で1,500万カ所への導入が期待できる」としている。これらの自営網は、インターネットなどのオープンな通信網とは分離して設置されることも多い。そのような構造ならば、サイバー攻撃による不正侵入の可能性も低くなる。
▼ 注2
覆域(ふくいき):端末機が通信可能範囲にある、という意味。カバレッジと言われる。