自動運転よりも遠隔運転が現実解か
〔1〕以前から実演されていた遠隔運転
5Gの特徴である低遅延性は、車両の運転にも使える。この応用は、何年も前から、エリクソンやノキアといった通信機器製造事業者が強調しており、デモも行ってきた。ノキアは、カメラ搭載のラジコン自動車をMWC会場内で走らせるデモを数年前に行った。エリクソンも、50kmほど離れたサーキットに置かれた自動車を5G経由で運転するデモを以前に行っている。
2019年、エリクソンは2500km離れたスウェーデン国内のサーキットに置かれた実験用トラックと接続し、会場からの運転を体験させていた(写真6)。トラックの移動速度は時速5km程度であった。運転を体験した人は、違和感なく操作できたと話しており、将来に期待がもてるものであった。
写真6 2500km先のサーキットに置かれたトラックを遠隔運転するエリクソンのデモ
出所 筆者撮影
また、同社は、スイスのSBB(スイス連邦鉄道)と共同で、鉄道運転の遠隔化技術を開発している(写真7)。運転士の配置効率化が主な狙いだ。
写真7 列車の遠隔運転に関するエリクソンとSBB(スイス連邦鉄道)の研究(写真はMWC 2018のもの)
出所 筆者撮影
5Gによる遠隔運転の取り組みを見ると、鉄道ではかなり短期間に実現されそうだ。通信の維持が確保されれば、運行上の問題は少ないだろう。
〔2〕自動車の遠隔運転は物流業務用への応用か
自動車では、まずはトラックなどの物流業務用に利用されそうだ。当初は、高速道路のような攪乱要素が少ない道路に限られるが、やがて一般道にも拡大されるだろう。一般道に拡大されれば、遠隔運転代行といった新ビジネスも期待できる。
高速道路では、隊列走行技術も開発されている。多くの構想では、先頭車両は有人運転で、後続車両の自動追従を目指している。隊列走行と遠隔運転が組み合わされば、無人隊列走行も可能になる。
最終的には自動運転による運送が期待されるが、現在のインフラを改変することなしに自動運転を行わせるのは難しい。単に走るだけなら可能でも、手信号による誘導の理解や非自動運転車両との協調など、まだ解決すべき課題は多い。遠隔運転と隊列走行を融合して早期に実施するのが現実的な答えとなりそうだ。そのために5Gが必要となる。