丸紅とLO3とのパートナーシップの背景
〔1〕LO3はP2P電力取引のパイオニア
今回、丸紅がLO3と共同実証実験を実施した主たる理由は、LO3が、ブロックチェーン技術を利用したP2P電力取引を可能とするプラットフォームを基盤とした案件を展開し、世界に先駆けて実証しているパイオニアであること、さらに国際的に有力な企業とアライアンスを積極的に拡大中のスタートアップであること、である。
このような背景から、今後、日本およびアジアでもP2P電力取引プラットフォームを展開させたいLO3と、国内外で電力事業の実績をもつ丸紅が、まず技術面からの検証を行うことになった。
〔2〕LO3の国際展開とアジア初の実証
さらに、丸紅がLO3を選択した背景には、次のようなことも挙げられている。
- LO3は、2017年末に英国大手電力会社のセントリカ(Centrica、英国バークシャー州に本拠を置く、ガス・電力事業を行う会社)をはじめ、重電機メーカーであるドイツのシーメンス(Siemens)などからの資金調達に成功したこと。
- 欧州でエネルギー系ユーティリティ(電力・ガス)を中心に多数の企業や団体が参画する研究開発組織「Energy Web Foundation」と連携していること。
- 欧州を中心に商品先物市場を運営するEEX(European Energy Exchange、欧州エネルギー取引所)グループの一部である在フランスの欧州電力取引所(EPEX SPOT)とも、マイクログリッドと卸市場をブロックチェーンで連携する試みを展開していること。
- 上記3つのほか、LO3は、米国やドイツ、オーストラリアにおいて、各電力会社と協業し実証実験を進めていること。
一方LO3側は、今回の丸紅との共同実証がアジアでは初となることもあり、ビジネス的にも日本は重要な拠点であり、価値があるものと判断した。
LO3が提供するソリューション
LO3は、ブロックチェーンを活用したP2Pプラットフォームを提供しているが、LO3自身の立ち位置は、プラットフォーマー(プラットフォームを提供し、自らを事業を行う事業者)ではなく、小売電気事業者(ここでは丸紅新電力)に活用されるビジネスのツールの提供者というものだ。
具体的には、LO3が次の3つの主要な技術コンポーネントを丸紅新電力に提供する。
- 1つ目は、前述したTransActiveGridプラットフォームである。図2に、より一般化したTransActiveGridプラットフォーム(P2P電力取引プラットフォーム)の構成例を示すが、これは、図3に示すクラウド上で提供される。同プラットフォームは基本的な機能として、電力の「売り」と「買い」のインタフェースを備え、両者をマッチングさせるマーケット機能(契約機能)をもっている。
- 2つ目は、TAGe(TransActiveGrid element、トランザクティブ・グリッド・エレメント)という端末機器(写真3)である。写真3は、第2世代のTAGe G2である。第1世代のTAGeは、電力の計測機能として電力メーター(スマートメーター)も内蔵していたが、第2世代のTAGe G2は、すでにユーザー側に設置されている電力メーターと連携させて使用する設計となっているため、よりコンパクトな機器となっている。
このため、TAGe G2は、電力メーターからのデータをクラウド上のTransActive Energyプラットフォームに提供するゲートウェイ的な役割を果たしており、建物や太陽光発電所の配電盤がある場所に設置される。TAGe G2は、小さな弁当箱のような大きさで、電源ユニット、コンピュータ(CPU)チップ、各種インタフェース(Ethernet、RS-485など)用チップなどが内蔵されている。 - 3つ目は、スマートフォン用のユーザーインタフェースであり、これはモバイルアプリをスマートフォンへダウンロードすることによって提供される。これにより、ユーザーはスマートフォンなどを使用して、次のように、電力の取引状況などを見たり、電力売買のオークションに参加したりできるようになる。
図2 TransActiveGridプラットフォームの一般的な展開例
出所 LO3 Energy提供
図3 丸紅のP2P電力取引システムの実証実験のイメージ図(北海道から関東甲信越地方の数カ所で、クラウド連携して実証を行っている)
出所 丸紅株式会社提供
写真3 TAGe(TransActiveGrid element) G2の外観
出所 LO3 Energy提供
①前日の自宅の消費電力の構成が表示される。具体的には、ローカルの太陽光発電からの電力量が何%で、系統からの電力量が何%であったかという比率などが表示される。
②電力取引に参加する。kWh当たりの電気をいくらで買うかという入札価格をスマートフォンアプリを通じ設定しておくと、いくらで落札したかがアプリ画面に表示される(入札方式はセカンドプライスオークション:落札者は最も高く入札した人だが、支払額は2番目の入札額となる。ヤフーオークションなどと同じ方法)。