[クローズアップ]

丸紅とLO3 EnergyがP2P電力取引の実証実験を開始

― トランザクティブ・エナジー時代の到来! ブロックチェーンは新ビジネスチャンスのツールとなるか ―
2019/06/07
(金)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

丸紅の電力事業と丸紅新電力の電力設備

表2 丸紅のプロフィール(2019年5月現在、敬称略)

表2 丸紅のプロフィール(2019年5月現在、敬称略)

出所 https://www.marubeni.com/jp/news/2019/release/20190220J.pdf

 次に、丸紅のプロフィールと電力事業を簡単に紹介しよう。

 世界で多角的なビジネスを展開する大手総合商社である丸紅(表2)は、電力事業において、海外の発電所の建設(EPC)注6は全世界で11万2,444MW、発電事業(IPP)注7は海外20カ国で1万1,529MWの発電設備容量(持分ベース)を保有し(ともに2019年4月末現在)、巨大なビジネスを展開している〔日本の総発電設備が27万2,293MW(2019年2月現在)注8であるところからその大きさがわかる〕。

 また、日本国内では664MW〔454MW(45.4万kW:持分ベース)〕の発電設備容量をもつ。そのうち、再エネ取扱比率は4割程度(太陽光、バイオマス、水力、風力の合計)にも達している(写真2)。さらに、表3に示すように、国内発電事業における太陽光発電(丸紅が保有する発電所。2019年4月末現在)は、10拠点で107MW(10.7万kW)となっている(建設中も含む)。

写真2 丸紅が保有する三峰川電力 第一発電所(長野県)

写真2 丸紅が保有する三峰川電力 第一発電所(長野県)

出所 https://www.marubeni.com/jp/business/power/

表3 国内発電事業概要(太陽光発電)、丸紅保有発電所(2019年4月末現在)

表3 国内発電事業概要(太陽光発電)、丸紅保有発電所(2019年4月末現在)

出所 丸紅株式会社提供

電力分野における新しい潮流

〔1〕卒FITと新しいビジネスチャンス

 日本では、2019年11月から順次FIT(Feed in Tarrif、再エネの固定価格買取制度)による買取期間が終了した再エネ発電設備が発生し始めることもあり、卒FIT時代を睨んだビジネスへの取り組みが活発になっている。

 特に、太陽光(再エネ)を中心とする分散型電源を保有している需要家(プロシューマ)注9は、FIT下での売電終了以降、自らの太陽光由来の電力(発電量:kWh)を希望する事業者に売電することが可能となるなど、新しい潮流が生まれようとしている。

 エネルギービジネスの新時代を迎え、それを実現するため、国際的にもブロックチェーン技術がキーワードとして浮上してきた。

〔2〕IoT時代とスマートコントラクト

 IoT時代を迎えて、多様なセンサーや各種通信モジュールを通じた小規模かつリアルタイム性の高い電力取引が可能となるが、これに対し、クレジットカードなどの従来型の決済システムの利用料が相対的に高額となってしまうことがある。

 しかし、ブロックチェーンを基盤とする共通プラットフォームでは、少額の取引であっても決済にかかるコストを最小化し、また、スマートコントラクト注10を利用することよって、契約の手続きなどを容易に自動化することが可能だ。このため、エネルギーの分散化が進み、IoT技術を駆使してVPP(Virtual Power Plant)などへの実証が展開されている電力業界やその周辺業界においては、今後、ブロックチェーン技術が活用される可能性が高いと考えられている。

 しかし、電力系統にブロックチェーン技術を適用するには、法的整備なども含めてまだいくつかの課題もあることも事実だ。このような課題を抱えながらも、日進月歩の発展途上にあるブロックチェーン技術は、今後、電力事業における付加価値の拡大や、他事業への展開を推進していくうえで、無視できない重要な技術ともなってきている。

 表4に、一般的なブロックチェーンにおいて評価される特徴と機能を、今回の実証実験に適用している例を示す。

表4 一般的なブロックチェーンにおける評価と今回の実証実験への適用
(注)一般的にブロックチェーンで評価される表中の特徴が、今回の実証実験にも当てはまる。

表4 一般的なブロックチェーンにおける評価と今回の実証実験への適用(注)一般的にブロックチェーンで評価される表中の特徴が、今回の実証実験にも当てはまる。

※法制度の改正が必要なため、あくまでも仮想的な実施
<その他の具体的な検証項目>
・ 運用結果やパフォーマンス検証(初期コスト、運営コスト、スケーラビリティ、処理速度、セキュリティなどの課題を抽出、検証)
・ ユーザーインタフェースの妥当性検証
・ オークション方式の妥当性検証
出所 丸紅株式会社提供


▼ 注6

EPC:発電所の設計(Engineering)、調達(Procurement)、建設(Construction)を受託する「建設工事請負契約」によるビジネスのこと。

▼ 注7

IPP:Independent Power Producer、独立系発電事業者。丸紅自身が発電設備のオーナーとなって電力をつくり出し、現地の電力公社などに販売する事業モデル。

丸紅は、EPCとIPPの両輪で海外の電力インフラ事業を展開している。

▼ 注8

https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/electric_power/ep002/xls/2018/1-2018.xlsx

▼ 注9

プロシューマ(Prosumer):Producer(生産者)+Consumer(消費者)の合成語。ここでは、エネルギーの生産者(太陽光の発電者)であり、同時にエネルギーの消費者でもあることを意味している。

▼ 注10

スマートコントラクト(Smart Contracts):契約(コントラクト)をスマート(簡単に、自動的に)に実行できる仕組み(コンピュータプログラム)。すなわち、自動的に契約を履行する仕組みのこと。

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