日本国内のマルチキャリア対応と基本料金
〔1〕同一のSIMでNTTドコモもKDDIも
SORACOM IoT SIMは、これまで海外ではマルチキャリアに対応していたが、日本国内においては、NTTドコモのネットワークのみが利用可能であった。しかし、日本企業の海外市場への進出やビジネス展開が活発化する中で、いくつか課題が出てきた。
基本料金を比較すると、グローバル対応のIoT SIMのほうが、日本のみで使用できる特定地域向けIoT SIM(NTTドコモSIMやKDDI SIM)の料金(300円/月=10円/日)よりも安いため、ユーザーから改善の要望が出されてきた。
〔2〕基本料金の大幅値下げとその背景
グローバル対応のIoT SIM(後出の図6)の基本料金を具体的に見ると、
- plan01s:約194円/月(1.8USD=0.06USD/日)
- plan01s-LDV;約43円/月(0.4USD)
というように、いずれも300円/月よりも安い料金であった。
これを改善するため、新しく発表されたSORACOM IoT SIMでは、日本国内でKDDI LTE 回線に対応した。これによって、図5に示すように、同一のSIMでNTTドコモ 3G/LTE網に加え、KDDIのLTE網へも接続できる、マルチキャリア対応が可能になった注5。
図5 SORACOM IoT SIMが日本でもマルチキャリアに対応へ
出所 玉川憲、「基調講演:IoTを超えて」、株式会社ソラコム、2019年7月1日
この結果、
- SORACOM IoT SIM 日本でのデータ通信料金(NTTドコモ回線の場合):0.20 USD/MB
- SORACOM IoT SIM 日本でのデータ通信料金(KDDI LTE回線の場合):0.02 USD/MB
というように、KDDI LTE回線のデータ通信料金は従来の1/10となった注6。
このほか、今回の発表では、利用料金について、世界83カ国でデータ通信量を値下げし、特に欧州中心の21カ国では、1/4(0.08 USD/MB⇒0.02 USD/MB)に値下げが断行された。これらの値下げが可能であった背景には、IoT回線が100万回線を突破したことが大きな要因となって、顧客へのフィードバックが可能になったからである。
データ遅延、通信速度の大幅な改善
〔1〕通信のデータ通の遅延を大幅に縮小させる
SORACOMは、IoT通信におけるデータの遅延についても大幅な改善が行われた。これまでIoT SIMのランデブーポイント(SIMデータの出入り口)は、ドイツ1カ所であったため、IoT SIMの接続(データの送受信)はドイツ経由となっていた。このため、ドイツ国内および周辺諸国ではデータの遅延は小さかったが、日本や米国の場合は、いったんドイツにデータが飛んでから折り返されてくるため、その間のデータの遅延は300ミリ秒程度となり、大きな遅延時間であった。
そこで、今回、日本と米国に新たにランデブーポイントを設置し合計3カ所にした。これによって、遅延問題は、例えば東京の場合には、300ミリ秒から50ミリ秒程度へと大幅に縮小されることになった。このサービスは、2019年8月からスタートする。
〔2〕IoTのデータ通信速度:最大8Mbpsへ
IoTの進展とともに、IoTの適用や活用の場は急速に増大している。従来のIoT通信では、小さなデータを断続的に送受信するというケースが多かったが、最近では、デジタルサイネージ(電子看板)やカメラ画像など、データ量の多い画像通信へのユースケースが増えてきている。
これまでのIoT向けデータ通信サービスでは、32kbps、128kbps、512kbps、2Mbpsなどの速度クラスを用意し、顧客は選択できるようになっていたが、今回、従来の伝送速度に比べて最大4倍となる8Mbpsが新設され、大幅に改善されることになった。このサービスは、2019年7月2日から利用可能となった。
「IoTを超えた」ビジネスの展開
今回の新発表は多岐にわたっているため、表2に、IoT向けデータ通信サービス「SORACOM Air(セルラー向け)」のタイプ別の整理を、図6に、SORACOM Airの各種planとその伝送速度、カバレッジ(利用可能ネットワーク)、料金体系、ランニングコストなどの比較表を示す。
表2 IoT向けデータ通信サービス「SORACOM Air(セルラー向け)」のタイプの整理
LDV:Low Data Volume
出所 玉川憲、「基調講演:IoTを超えて」、株式会社ソラコム(2019年7月1日)をもとに編集部で作成
今後、2020年には日本でもIoTを包含した5Gの商用サービスが開始され、さらに新しくローカル5Gも予定されるなど、IoTを巡る動きはいっそう加速していく。
IoT向け通信プラットフォーム「SORACOM」が、5G/IoT時代をどのようにとらえ、「IoTを超えた」ビジネスをどのように展開していくのか、注目が集まっている。
▼ 注5
ただし、KDDI LTEへの接続は、デバイスがKDDI LTE回線に対応していることが前提である。また、Limited Preview(申請内容によって適用の適否が判断される)サービスのため、サービスの利用の際は申請が必要となる。