[直流時代の到来!]

直流時代の到来!<後編> その2 中国における直流送配電技術の進展

― 国家電網のHVDCプロジェクトが展開するHVDC/MVDC/LVDC ―
2019/08/09
(金)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

中国におけるHVDCプロジェクト

 中国における高圧直流送電(HVDC)注4プロジェクトでは、

  1. LCC-HVDC方式(他励式の高圧直流送電)
  2. VSC-HVDC方式(自励式の高圧直流送電)

という2つの方式が推進されている。

〔1〕LCC-HVDC方式(他励式コンバータによる送電)

 中国では地理的な立地条件から、水力発電の多くは中国の中央部に設置され、西部には主に石炭による火力発電が設置されている。しかし、実際にその電力を使用する場所(電力の需要地。ビルや工場など)は、図3の右側に示す東部に集中している。

図3 中国のHVDCプロジェクトが推進する10ルート以上のLCC-HVDCの状況

図3 中国のHVDCプロジェクトが推進する10ルート以上のLCC-HVDCの状況

HVDCプロジェクトの向家(Xiangjiaba)ダムー上海(Shanghai)線は2010年7月に運開。赤線で示すHVDC送電の起点は、四川省の金沙江(きんしょうこう)に建設された発電容量6.4GW(6400MW=640万kW)の 向家ダム水力発電所であり、全長2000㎞の終点の上海市へ35TWh(テラワット時)のクリーンな水力を送電(直流電圧±800kV)することが可能。
出所 Mingming SHI(SGCC)、「Developments of DC Transmission & Distribution Technology in China」、2019年6月4日

 このため、中国では、送電効率がよく低炭素化の実現にもつながる、直流による長距離送電(例:全長2,000㎞)が求められ注5、現在10ルート以上の大型のHVDC送電網が建設されている。

(1)HVDCプロジェクトが推進するHVDC送電網の例

 例えば、図3の赤線で示したのが、HVDCプロジェクトが推進するUHVDC(Ultra HVDC、超高圧直流)送電網の中の1つのルートで、これは向家(Xiangjiaba)ダム-上海(Shanghai)線と呼ばれ、このルートは2010年7月に運開した注6

 HVDC送電網の送電電圧はDC±800kV注7であり、その起点は、四川省・金沙江(きんしょうこう)に建設された発電容量6.4GW(6,400MW=640万kW)の向家ダム水力発電所だ。この起点から全長約2,000㎞の送電線を経て、終点となる商工業の中心地である上海市へ、35TWh(テラワット時)のクリーンな電力(水力発電の電力)が送電可能となっている。

(2)LCC-HVDC方式(他励式コンバータ)による送電

 図4に、HVDCプロジェクトで使用されている、LCC-HVDC方式(表2参照)による送電の仕組みを示す。

図4 HVDCプロジェクトのLCC-HVDC(他励式HVDC)の構成

図4 HVDCプロジェクトのLCC-HVDC(他励式HVDC)の構成

UHVDC(Ultra High Voltage Direct Current、超高圧直流)による送電線の最大送電容量は、1万MW〔西門-泰州±800kVプロジェクト(Ximeng Taizhou ±800 kV project)〕。UHVDCプロジェクトの心臓部であるコンバータバルブ(設備)は、定格電流が6,250A。
出所 Mingming SHI(SGCC)、「Developments of DC Transmission & Distribution Technology in China」、2019年6月4日

表2 用語解説

表2 用語解説

※回路を流れている電流を強制的に切り離そうとすると、電流は電路を流れ続けようとするため、電極が物理的に離れた瞬間、電極間にアーク(孤)が発生する。このアークを通して電流が流れ続けようとする。このアークを消すことを「消弧」と呼ぶ。
出所 各種資料より編集部で作成

 水力発電で発電された交流電力は、まず

①図4左の向家ダム水力発電所の変換所で、「整流器」によって直流電力に変換され、

②「直流送電線」(HVDC)で送られる。送電された電力は、③図4右に示す需要地の上海変電所で、「インバータ」(変換器)によって直流から交流に変換され、使用される。

 図5は、需要家側地点に設置された上海変電所の上空から撮った写真である。

図5 上空から撮影した上海変電所の外観(赤枠が変換所の部分)

図5 上空から撮影した上海変電所の外観(赤枠が変換所の部分)

出所 Mingming SHI(SGCC)、「Developments of DC Transmission & Distribution Technology in China」、2019年6月4日

(3)LCC-HVDC方式の特徴と留意点

 これまで解説してきたLCC-HVDC方式は、長距離直流送電に適した特性をもっているが、次のような留意点もある。

①LCC-HVDC送電システムでは、一般的に、直流から交流に電気を変換する場合に、転流失敗(Commutation Failure)注8が発生することがある。

②LCC-HVDCシステムの変換器(コンバータ)は、その非線形負荷によって高調波電圧および高調波電流を発生させる注9

③大きな無効電力を吸収する(主に定格電力の40%〜60%を吸収)。

④パッシブフィルタ〔高調波電流を抑制(フィルタ)するために、抵抗やコンデンサ、インダクタなどの受動(パッシブ)部品で構成したフィルタ〕や無効電力補償装置(電圧を安定化させる装置)などが必要なため、LCC- HVDCシステムとVSC-HVDCシステム(後述)は、ともに広い設置面積を必要とする。

〔2〕VSC-HVDC方式(自励式コンバータによる送電)

 次に、HVDCプロジェクトのうち、もう一方のVSC-HVDC方式の動向を紹介する。

 VSC-HVDC(Voltage Sourced Converter-HVDC)方式とは、自励式変換器を使用したHVDCのことで、自身の回路内に蓄えたエネルギーによって変電所内の変換器を動作させ、直流-交流変換を行う方式である。前述した他励式と異なり、ブラックアウト(大規模停電)が発生した場合、外部の交流電源がなくても自身で直流-交流変換を行うことができるのが特徴だ〔IGBT(Insulated- Gate Bipolar Transistor、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)を使用する〕。

 VSC-HVDCは、非同期の交流システム(50Hz/60Hzなどの異なる周波数の交流システム)を接続したり、都市部へ直流電力を供給したり、離島間の連結をしたり、ブラックスタートなども行ったりすることができる。

〔3〕VSC-HVDC方式(2つの実証プロジェクト)

 ここで、VSC-HVDC 方式による、2つの実証プロジェクトを紹介する。

(1)ZHOUSHAN(舟山)VSC-HVDC プロジェクト

 1つは、「舟山(シュウザン)VSC-HVDCプロジェクト」で、図6に示すように、中国の5つの島を合計140kmの海底ケーブルで結んだものである。

図6 5つの島を結ぶZHOUSHAN VSC-HVDC プロジェクト

図6 5つの島を結ぶZHOUSHAN VSC-HVDC プロジェクト

※モジュラーマルチレベルコンバータ(MMC):次世代の大容量な高電圧自励式変換器の主流になると見られている技術
出所 Mingming SHI(SGCC)、「Developments of DC Transmission & Distribution Technology in China」、2019年6月4日

 舟山島がこの中で一番大きな島であるが、配電電圧は±200kVのDC電圧となっている。このプロジェクトは、全島で1,000MW(400MW+300MW+100MW+100MW+100MW)の容量を供給している。

(2)ZHANGBEI(張北)VSC HVDCプロジェクト

 もう1つの「張北±500kV VSC HVDC送電プロジェクト」は、VSC-HVDC送電網を構築した最初のもので、ZHANG BAO(張宝)、FENGNING(豊寧)、ZHANGBEI(張北)、BEIJING(北京)という4つの変換所を結んで構築されている。

 これは、世界初のDC±500kVの直流システムとなっており、2008年の北京オリンピックではこの直流システムで電力が供給され、低炭素オリンピックともいわれた。


▼ 注4
高圧直流送電(HVDC:High Voltage Direct Current transmission)とは、送電側(発電所側)と受電側(需要側)の両端の変電所に、それぞれ交流⇒直流変換(送電側)、直流⇒交流変換(需要側)する変換設備を設置し、長距離区間を直流送電する送電システムのことである。

▼ 注5
高圧送電では、距離によっては交流送電よりも直流送電のほうがコストメリットは大きい。直流送電が交流送電に比べてコストメリットが生じる分岐点は、架空送電線路の場合は800km以上、海底ケーブルは50km以上といわれている。

▼ 注6
http://www.abb.co.jp/cawp/seitp202/afadd01ca1b88e7cc12576b90011ea61.aspx

▼ 注7
DC±800kV:電圧ゼロの中性線(あるいは接地線)を基準に、直流+800kV(正極線)と直流-800kV(負極線)という双極(正極と負極)の設備構成で送電する方式。

▼ 注8
転流失敗:直流から交流に電気変換する際、不具合によって変換設備内部のスイッチのオフ制御(転流という)が動作せず、変換に失敗すること。

▼ 注9
電力会社から供給される電力は規則的なサイン波の交流である。一方、接続機器にはサイン波の電流が使われるもの(線形負荷)と、そうでないもの(非線形負荷)がある。抵抗やコンデンサ、コイルなどの線形負荷では電力の波形は変わらないが、半導体を使った機器などの非線形負荷では高調波が重なり波形が歪んでしまう。

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