[直流時代の到来!]

直流時代の到来!<後編> その2 中国における直流送配電技術の進展

― 国家電網のHVDCプロジェクトが展開するHVDC/MVDC/LVDC ―
2019/08/09
(金)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

国家電網がMVDCとLVDCに取り組む理由

 国家電網有限公司が高圧のHVDCだけでなく、中圧のMVDCや低圧のLVDCに積極的に取り組んでいる理由について見てみよう。

 図7に、同社が現在から将来に向けて取り組んでいる、交流から直流への移行計画を示す。

図7 国家電網の交流から直流への移行計画

図7 国家電網の交流から直流への移行計画

出所 Mingming SHI(SGCC)、「Developments of DC Transmission & Distribution Technology in China」、2019年6月4日

 図7は、上段に現在の送配電網を、下段に未来の送配電網を示したものである。

(1)現在の送電網(図7上部)については、①直流40万kVdc(+/−400kVdc)のHVDCと②交流380/220/150kVacのHVACが使用され、図7右上の配電網については交流の①50〜150kVac(HVAC)、②20〜10kVac(MVAC)、③400/230Vac(LVAC)が使用されている。

(2)これに対し、将来の送電網(図7下部)はすべてHVDC(高圧直流送電)へと移行する。また配電網については、①50〜150kVac区間は現在のHVAC(高圧交流配電)と同じであるが、現在の交流の②20〜10kVac(MVAC)、400/230Vac(LVAC)は、すべて直流配電網(MVDC、LVDC)へと移行していく。すなわち、図7右下に示すように、それぞれ+/−3.5kV/7kV/14kV(MVDC)、+/−350V/700V(LVDC)というように直流(DC)の世界に移行していく計画となっている。

 MVDCの応用としては洋上風力発電や電車などへの配電網などが、LVDCの応用としては太陽光発電や家電機器(テレビなど)、パソコン、電気自動車(EV)、データセンターなどが挙げられている。このMVDC、LVDCを実現することによって、送配電による電力損失の低減、すなわち低炭素化が実現される。

 このような直流の動きが加速する中で、2012年4月には「これはエジソンの復讐か」という論文(MITテクノロジーレビュー)まで登場した注10

MDVC&LVDCプロジェクト

〔1〕4つの実証プロジェクトが展開

 中国で、中圧直流(MVDC)と低圧直流(LVDC)分野にどのようなプロジェクトがあるかを見てみよう。現在、

  1. 蘇州再生可能エネルギータウン
  2. 深圳低炭素ビルディング
  3. 北京 肖爾泰フレキシブル変電所
  4. 南京ゴールデンコーポレーションLVDCビル

という4つの実証プロジェクトが展開されているが、ここでは、蘇州の再エネタウンを紹介する。

〔2〕蘇州の再エネタウン

 図8は、蘇州の同里(トンリー)で実証されている再生エネタウンの概要である。

図8 蘇州の再エネタウン(その1):実証プロジェクトの概要

図8 蘇州の再エネタウン(その1):実証プロジェクトの概要

出所 Mingming SHI(SGCC)、「Developments of DC Transmission & Distribution Technology in China」、2019年6月4日

 太陽光発電や太陽熱発電、風力発電、バッテリーや蓄熱槽など複数の再エネ電源が、合計約3MW導入されている。さらに、直流負荷(使用機器)として、EV充電器をはじめDCエアコン、データセンターなどが設置され、合計1.2MWの負荷となっている。

〔3〕蘇州の再エネタウンの配電網

 図9は、蘇州の再エネタウンの配電網のトポロジー(構成)であり、これは「2017-2020年全国主要研究プロジェクト」による支援を受けて推進されている。

図9 蘇州の再エネタウン(その2):配電網のトポロジー

図9 蘇州の再エネタウン(その2):配電網のトポロジー

出所 Mingming SHI(SGCC)、「Developments of DC Transmission & Distribution Technology in China」、2019年6月4日

 まず、蘇州の再エネタウンには、図9の最上段に示す、10kVの交流配電網(ラインAとラインB)から電力が供給され、次のような階層的なシステム構成となっている。

(1)10kV ACの配電網に直下には、パワーエレクトロニクス変圧器(PET:Power Electronic Transformer)として、#1PET(3MVA)と#2PET(3MVA)の2台が設置され、380 ACと±375V DCが供給される。これらは、風力発電、EV充電器、蓄電池システム(BESS:Battery Energy Storage System)、データセンターなどへの電力として供給される。

(2)また、10kV ACの配電網に直下には、自励式コンバータ(VSC)として#1VSC 2.5MAと#2VSC 2.5MAが設置され、10kV ACを±750V DCに変換し、±750V DCの配電網を構成している。

(3)その直流±750Vの配電網には、太陽光発電(PV)、EV充電器、蓄電池システムなどが接続されている。

(4)また、直流±750Vの配電網には、FCL(Fault Current Limiter、故障電流制限器)が設置されている。これによって、異常事態が発生しても、データセンターなどミッションクリティカルな設備が、故障電流による影響を受けないような対策が施されている。

(5)さらに、直流±750Vの配電網からは、スマートホーム向けの220VのDC屋内配線へ直流電力が供給され、家電機器などを動作させる。必要に応じて降圧され、パソコンや照明向けに48V DCも供給される。

今後の展開:IECなどでの標準化活動

 これまで見てきた交流から直流への移行は、国家主要研究プロジェクトのサポートのもとで研究され、同時に使用されている各機器の性能評価なども行われており、効率的な直流への評価が高まっている。

 中国は、人口も約14億人と多く、今後、各産業が急成長しようとしている段階にあるため、電力消費も非常に大きい国である。このため、低炭素社会の実現に向けて、ACシステムよりも高い効率をもつDCシステムへの期待が高まっている。

 このような背景のもとに、中国では、HVDC、MVDC、LVDCの全分野にわたって、直流システムの導入と移行に向かい、経済性も含めた技術の研究開発がダイナミックに推進されている。

 同時に、中国は今後、スマートホームをはじめデータセンター(DCマイクログリッド)、蓄電池、電気自動車など、直流で動作する多様な機器や設備が普及する直流時代に備えるため、日本などとの交流をさらに深めるとともに、IEC(国際電気標準会議)をはじめ、多くの標準化関連団体とも、直流関係の標準化に向けて積極的に関わっている。


▼ 注10
「Edison’s Revenge: The Rise of DC Power」、MIT Technology Review、2012年4月24日号

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