アーヘン工科大学の研究活動
〔1〕CWD
具体的な研究活動の例として、図3にCWD(風力発電研究センター)の4MWのテストベンチ(試験装置)を示す。CWDでは、機械的および電気的な研究に加えて、フォルト・ライド・スルー注6などの研究も行われている。
図3 CWD(風力発電研究センター):風力タービンの機械的および電気的研究および特性評価用の4MWテストベンチ
出所 Prof. Dr. ir. Rik W. De Doncker「DC Technology - Key Enabling Technology for a CO2 Neutral Urban Environment」、2019年6月4日
この研究では、非常に重要なポイントであるが、風車を交流(AC)につなげるだけでなく、直流(DC)にもつなぐ実験が行われている。これは将来の直流システムに備えるためで、大型の風力発電所でこれらに対応できるかどうか、また関連する変電所についての研究も行われている。
〔2〕CARL研究センター
CARL研究センターは、電気化学とパワーエレクトロニクスシステムに関する、寿命・信頼性・ライフサイクル分析などを行う新しい研究センターであり、2019年末に完成する予定となっている。
〔3〕E.ON ERC
図4に、大学構内の研究機構であるE.ON ERC(エーオン エネルギー研究センター)の研究分野を示す。図4に示す電力網(グリッド)と貯蔵システム、ビルと都市地区、デジタルエネルギー、エネルギー市場と政策という4つが、研究の柱となっている。
図4 E.ON ERC(エーオンエネルギー研究センター)の研究分野(都市のエネルギー需給に焦点)
※1 空間経済分析:特定の土地において、なぜ産業の集積や都市の形成が起こるかなどを理論的に分析する経済学
※2 レトロフィット:旧型の装置などを改造し、新式の技術を組み込んで存続させること
※3 セクターカップリング:例えば、熱・ガス・電動車など各セクター間の融通
出所 Prof. Dr. ir. Rik W. De Doncker「DC Technology - Key Enabling Technology for a CO2 Neutral Urban Environment」、2019年6月4日
また、中心となる4研究の周囲には、焦点となるV2G(電動車からグリッドへ)から地熱エネルギー、エネルギー効率と省エネからエネルギーシステム分析までの10テーマが示されている。
図5 FEN(フレキシブル電気ネットワーク)研究キャンパス:直流マイクログリッドに関する研究等
出所 Prof. Dr. ir. Rik W. De Doncker「DC Technology - Key Enabling Technology for a CO2 Neutral Urban Environment」、2019年6月4日
〔4〕FEN研究キャンパス:ドイツ版のシリコンバレー
前出の図2に示した、産官学で推進している新しい形態のFEN研究キャンパスプロジェクトも活動している。
FENは、Flexible Electrical Networks、すなわち、フレキシブルな電力ネットワーク研究キャンパス(図5)で、米国のシリコンバレーと同じスタイルで推進する、ドイツによるエネルギー版のシリコンバレーである。
このFEN研究キャンパスでは、大きく、①直流マイクログリッドやその構成要素技術、デジタル化などの技術的研究と、②社会・経済・環境など複数の分野にまたがる学際的研究や規制&標準化(IECやSIGREなど)が取り組まれている。
これは、FENランドマークプロジェクト(画期的なプロジェクト)とも呼ばれ、次世代のフレキシブル電力ネットワーク(FEN)の実現を目指して、図6に示すような、中電圧(直流5kV、5MW)によるキャンパスDCマイクログリッドなどの研究が行われている。
このFEN研究キャンパスプロジェクトには、日本から三菱電機、日立製作所、富士電機、村田製作所など、また米国のGEやドイツのシーメンスなどのグローバル企業も参加し注7、各種のプロジェクトが研究活動を展開している。
図6 FENキャンパスプロジェクトにおける中電圧(直流5kV、5MW)によるキャンパスDCマイクログリッドの構成要素
IME:Institute for Process Metallurgy and Metal Recycling、精錬・金属リサイクル研究所
出所 Prof. Dr. ir. Rik W. De Doncker「DC Technology - Key Enabling Technology for a CO2 Neutral Urban Environment」、2019年6月4日
▼ 注6
フォルト・ライド・スルー:FRT:Fault Ride Through。再エネや蓄電装置などを含む分散型電源は、電力系統の電圧または周波数が一定の範囲を超えた場合(逸脱した場合)に、分散型電源も自身の機器保護のため、自身が備えている保護装置によって系統から切り離される。しかし、分散型電源が大量に切り離されることで、電力系統の電圧または周波数を本来の運用範囲からさらに逸脱させてしまい、電力系統全体の崩壊を引き起こす可能性が危惧される。
このような事態を防止するため、電力系統の電圧または周波数が本来の運用範囲を逸脱した場合でも、分散型電源が運転を継続することを「フォルト・ライド・スルー」という。これにより、事故後速やかに発電出力を回復させることができ、電力系統全体の安定運用が可能となる。