[直流時代の到来!]

直流時代の到来!<後編> その1 ドイツ アーヘン工科大学に見る直流技術の研究開発

― AC配電網からDCマイクログリッドへの転換 ―
2019/08/09
(金)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

ドイツ政府:気候変動目標の実現に向けて

〔1〕国内の科学技術機関がWGを結成

 ドイツ政府は、パリ協定注8の実現に向けて気候変動に関する目標を達成するため、国内の科学技術機関(Leopoldina、acatech、UNIONなど注9)の協力を得て、各機関のエネルギー部門を連携させるワーキンググループ(WG)を結成した。

 このWGでは、気候変動の目標(CO2ニュートラル)を達成するための研究を推進しており、2年前(2017年)にエネルギーシステムに関する報告書を発表した。

 図7に、同報告書で発表されたドイツのエネルギー転換による温室効果ガス(CO2)排出量の削減目標を示す。

図7 エネルギー転換の目標:温室効果ガス排出量の削減〔温室効果ガス排出量のデータ、ドイツ1990-2018(MtCO2 eq)〕

図7 エネルギー転換の目標:温室効果ガス排出量の削減〔温室効果ガス排出量のデータ、ドイツ1990-2018(MtCO2 eq)〕

CO2eq(単位):CO2 equivalent、地球温暖化係数(GWP:Global Warming Potential)を用いて CO2相当量に換算した値。Mt-CO2eq は百万トン の二酸化炭素相当量を示す。
出所 Prof. Dr. ir. Rik W. De Doncker「DC Technology - Key Enabling Technology for a CO2 Neutral Urban Environment」、2019年6月4日

 ドイツ政府は、2020年までに1990年レベル比で、40%程度はCO2の排出を減らすことを目標としている(図7の中央)。これは、欧州委員会(EC)の2020年までに20%削減するという目標に比べて2倍も高い削減目標である。

 それだけでなくドイツは、前述したように、CO2を排出しない原子力発電所は2022年までにすべて運転を停止することも決定しており、これはかなりのチャレンジングな目標となっている。

〔2〕CO2削減が遅れる3つの理由

 図7に示すように、ドイツにおける1990〜2018年の温室効果ガス(CO2)の排出量は減少とならず、ほぼ横ばいとなっている。そのため、さまざまな角度からCO2の排出削減を加速化していく必要があるということで、2050年までに−95%にするという削減目標が決定された(図7右下)。

 近年、CO2の削減が遅れ、鈍化している大きな理由は3つある。1つ目はエネルギー効率と節約の進展が小さいこと、2つ目はモビリティ(輸送分野におけるPV/PHEVなど電動車の促進)の取り組みが遅れていること、3つ目は太陽光発電や風力やバイオマス、水力など再エネの導入・増加が少ない注10こと、である。

〔3〕重要な「電化の促進」と「貯蔵技術」

 こうした解決に加えて、さらに今後は、①CO2を排出させないために、あらゆるものの電化を促進させること、②再エネも含めた多様な発電電力をどのように貯蔵するか、その貯蔵技術を研究していくこと、などが重要になってきている。

 特にエネルギー効率の面からは、発電した電力を直接利用することが最も効率的であるが、同時に電力の貯蔵技術も重要である。

 貯蔵技術については、

  1. 蓄電池(バッテリー)への貯蔵(EV・PHEVなどを含む)
  2. 熱(ヒート)貯蔵(地域冷暖房などを含む)
  3. 水素・燃料電池への貯蔵〔燃料自動車(FCV)などを含む〕

などの研究が行われている。

 アーヘン工科大学では、日本のNEDOなどと共同で1MW(容量:125kWh)のバッテリーエネルギー貯蔵システム(BESS:Battery Energy Storage System)や、水素電池セル(7.5分以内に超高速な充放電が可能)などの研究も進められている。


▼ 注8
パリ協定:2015年12月12日COP21(パリで開催)で採択された、地球温暖化対策(温室効果ガスの排出対策)の国際的な枠組み。産業革命前(1750年前後)に比べ世界の平均気温上昇を2℃未満に抑えたうえで、1.5℃未満にすることを目指す。21世紀後半に温室効果ガスの排出を実質ゼロにする。2020年から実施される。

▼ 注9
Leopoldina:Nationale Akademie der Wissenschaften、国立科学アカデミー、acatech:Deutsche Akademie Der Technikwissenscaften、ドイツ工学アカデミー、UNION:Der Deutschen Akademien Der Wissenschften、ドイツ科学アカデミー

▼ 注10
IEA(International Energy Agency、国際エネルギー機関 )の最新レポート(2019年5月6日発表)でも、再エネは国際的に見て2001年以降約20年間に大幅に拡大してきたが、2018年はその容量が2017年とほぼ同じ約180ギガワット(GW)と伸び悩んだ(毎年必要な純増量の約60%にすぎなかった)。再エネ容量の増加が前年比で増加しなかったのは、2001年以来2018年が初めてのこととなった。
IEA:Renewable capacity growth worldwide stalled in 2018 after two decades of strong expansion、2019年5月6日発表。

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