FEN(フレキシブル電力ネットワーク)研究キャンパス
アーヘン工科大学で行われているさまざまな研究のうち、革新的な直流(DC)グリッド技術の研究開発を含む、FEN研究キャンパスでの取り組みを紹介しよう。
〔1〕FEN研究キャンパスでの取り組み
図8は、左側に「従来の電源」、中央に「双方向・相互接続電力網」、右側に「再エネ電源」を配置した構成となっている。その具体的な内容は次のとおりである。
図8 ドイツにおけるFEN研究キャンパスの活動と1/3ルール
出所 Prof. Dr. ir. Rik W. De Doncker「DC Technology - Key Enabling Technology for a CO2 Neutral Urban Environment」、2019年6月4日
- 従来の電源リソース:中央発電所、産業用発電所、市営発電所、地域配電網
- 双方向・相互接続網の構造:高電圧網(HV:High Voltage)、中電圧網(MV:Medium Voltage)、低電圧網(LV:Low Voltage)
- 再エネ電源リソース:洋上風力、大規模太陽光発電/風力発電、太陽光発電/風力発電、地域配電網における太陽光発電システム
ここで注目されるのが、ドイツにおける再エネを含むグリーンエネルギーによる電力の送電が、現在、長距離の高圧送電網の1/3を使用し、中圧の1/3を使用し、さらに低圧の1/3というように、1/3ルールが実現され、運用されていることだ。
しかし、今後、e-Mobility(電動車)が普及し、自動車がすべて電動化(EV、PHEVなど)されたらどうなるだろうか。
図8の中段右下に黄色で示すように、すべての電動車が同じタイミングで充電はじめ、現在必要な11GWの電力容量が1,800GWにも増大したと仮定すると、配電網(グリッド)の大幅な増強が必要になってしまう。
しかし、ここで電動車の充電を適切に管理できれば、19〜20%程度配電網を増やす程度で対応できるシステムになる。
同時に、将来の配電網(グリッド)では、「e-Mobility(電動車)」の大量普及を無視できないため、「中電圧(MV)配電網」および「低電圧(LV)配電網の双方」を相互接続し、密接に連携させて運用するシステムの検討も必要となってきている。
このように相互接続された配電網によって、電動車の急速充電サービスのための効率的なソリューションの提供も可能となる。
図9 分散した再エネの導入と配置:メッシュ状につないでバランス調整を行う中圧配電網を構築
DSO:Distribution System Operator、配電系統運用者
出所 Prof. Dr. ir. Rik W. De Doncker「DC Technology - Key Enabling Technology for a CO2 Neutral Urban Environment」、2019年6月4日
〔2〕再エネによる地産地消のシステム
このようなシステムを実現する解決策の1つとして、例えば図9に示すように、100%太陽光発電のエリア、100%風力発電のエリアというように、エリアごとに再エネ電源を設置して活用する、地産地消のシステムが検討されている。
これによって、新たな送電網や配電網の構築を最小限に抑えることができるようになる。
〔3〕ACの配電網をすべて廃止し
DCマイクログリッドへ
今後、パリ協定の実現を目指し、国際的な低炭素化社会の実現が加速化していく中で、再エネの主電源化、電動車(EVやPHEV、FCV)の普及が国際的に期待されている。
これまで見てきたアーヘン工科大学の多彩なプロジェクトの展開は、ACとDCのハイブリッドな現在のグリッド構成から、最終的にACの配電網をすべて廃止し、メッシュ型のDCの配電網(DCマイクログリッド)に置き換えていくという、大きなトリガーの1つとも考えられている。その一般家庭(DC地区)への適用例を、図10に示す。
図10 DC5kV配電網とクラウドによる双方向エネルギー管理のイメージ図
出所 Prof. Dr. ir. Rik W. De Doncker「DC Technology - Key Enabling Technology for a CO2 Neutral Urban Environment」、2019年6月4日
これは、MVDC(DC配電網、DC5kV)とLVDC(屋内配線、DC+/−380V)を連携させ、クラウドによって、双方向のエネルギー管理を行っているイメージ図である。
ACからDCマイクログリッドへのチャレンジは、カーボンニュートラルを実現するという面からも、地震や台風など自然災害に対する電力システムのレジリエンスという面からも、大きく期待されている。