[スペシャルインタビュー]

AutoGrid Systems, Inc. CEO Amit Narayan(アミット・ナラヤン)氏に聞く!柔軟性エネルギー管理ソリューションによるAutoGridの日本戦略

― 変革する電力市場で商用化に向けた事業展開を強化 ―
2019/09/11
(水)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

日本におけるソリューション、ターゲット

〔1〕進行中の海外と日本の事例

―編集部 すでにワールドワイドで進行中の事例やプロジェクトについて教えてください。

Narayan プロジェクトは多数あり、サーモスタット管理、温水器の管理といった小規模な案件から風力発電、太陽光発電までさまざまなプロジェクトを行っています。

 例えばトタル社注9とは、風力発電や太陽光発電の最適化サポートのほか、メーターや周波数制御に関してもサポートしています。

 CLPホールディングス注10とは、マイクログリッドの実証実験を行っています。現在は香港のサイエンステクノロジーパークで実験を行っていますが、そのサービスを周辺の産業団地やキャンパスにも提供し、太陽光発電や蓄電池、EVを含めた電力管理を行っていく予定です。同様のプロジェクトをロイヤル・ダッチ・シェル注11などとも行っています。

 また蓄電池の分野では、どのタイミングで充放電するのかといった最適化や、そのオペレーションに関するプロジェクトも進行しています。

―編集部 日本においてはいかがでしょうか。日本と海外のプロジェクトの違いや日本での可能性は感じていますか。

Narayan 現在、日本で家庭用蓄電池によるVPP注12の実証実験を行っていますが、同様のプロジェクトを米国のカリフォルニアでも行っていて、そこでは60MWを発電しています。この2つのプロジェクトを比較すると、日本の方が進んでいる面もあります。日本は蓄電池の数が多いので、当然、高度で緻密な解析や制御が必要とされるからです。

 新しい市場で実証実験を行う際は、プロセスや技術などで70〜75%は他の国と共通部分があると感じています。しかし、残りの25%程度はその国独自の状況があり、そのギャップは現地のパートナーと組んで埋めていくしかありません。

 そこで、日本でもパートナー企業とともにビジネスを展開しています。パートナー企業も私たちとプロジェクトを組むことにより、弊社が持っている70〜75%の知見を吸収し利用することができ、市場拡大の際に大きな恩恵を受けることができます。

〔2〕VPP実証事業でプラットフォームを提供

―編集部 日本で進行しているプロジェクトについて教えていただけますか。

Narayan 経済産業省のVPP構築実証事業として行っている、「関西VPPプロジェクト」があります注13。これは、関西電力株式会社をアグリゲーションコーディネーター注14に、実証協力事業者6社、リソースアグリゲーター注15 13社が参加しているビッグプロジェクトです。この中でリソースアグリゲーターとして参加している三菱商事株式会社とともに、弊社がVPPプラットフォームを提供しています。

 プラットフォームのサービス提供先は小売事業者、系統運用者、再エネ事業者、需要家で、そのリソースは1万台規模、VPP実効出力は11MWを目指しています。このプロジェクトは2018年にスタートし、2020年には容量市場(入札)への参加、2024年をメドに本格的な運用を目指しています。

 その他、株式会社エナリスとは、太陽光発電や蓄電池、自家発電機などのDERを統合制御するオープンプラットフォームの構築を進めています。2019年12月を目標にVPP実証事業を行い、2020年のサービス提供につなげる予定です注16

 このように、現在の顧客を着実に成功に導くことに、我々は集中しています。そこで得た知見をベースに、他の顧客にもサポートできる体制や知識レベルの向上を図っていきたいと考えています。

2021年にはワールドワイドで黒字化を目指す

―編集部 日本市場を含めた収益の見通しや今後の展開について教えてください。

Narayan 私たちは同じプロダクトをワールドワイドに提供しているため、日本だけの収益を取り上げて語るのは難しいことです。ただ、日本市場でプロダクト展開する際は、ローカライズなどのカスタマイゼーションが必要となるため、その部分のコストを回収できるのは、おそらく今後1年以内と見込んでいます。

 これは日本独自の事情であり、基本的に私たちは常にワールドワイドでビジネスをとらえています。といいますのも、弊社は1つのSaaSプラットフォームによって、全世界にサービスを提供しているためです。現在は初期投資の段階で、特にSaaSプラットフォームの開発と機能向上にコストがかかっています。

 その一方で、日本をはじめ世界各国で顧客が増え、それにつれて収益も積み増しされています。この成長は今後も継続されることでしょう。今後、いつまでにどれだけの顧客の獲得ができるかにもよりますが、現在の見通しとしては、2021年にはワールドワイドで黒字化が達成できそうです。

―編集部 ありがとうございました。

◎プロフィール(敬称略)

Amit Narayan(アミット・ナラヤン)

Amit Narayan(アミット・ナラヤン)

AutoGrid Systems, Inc. CEO(最高経営責任者)

インド、カンプール工科大学で電気工学士、カリフォルニア大学バークレー校にて博士号を取得。
2010〜2012年、スタンフォード大学でモデリング&シミュレーションのスマートグリッド・リサーチディレクターとして電力グリッドのモデリング、最適化、制御に関する異分野間のプロジェクトを指揮。Magma Design Automation、Inc(Nasdaq:LAVA)の製品担当副社長を務め、同社の主力製品の製品開発の担当とともに製品管理チームを担当。
2011年、スマートグリッドにおける次世代のソフトウェア開発を目指し、AutoGrid Systems, Inc.を創業。


▼ 注9
フランスのエネルギー大手。世界で最大規模の大手総合石油ガス会社の1つ。

▼ 注10
中電控股(CLP Holdings Limited)。香港の垂直統合型電力会社。

▼ 注11
イギリスとオランダに本社を置く石油会社。欧州最大の石油メジャー。

▼ 注12
VPP:Virtual Power Plant、仮想発電所。電力系統に直接接続されている発電設備のほか、複数の自家発電、再エネや蓄電池などの発電設備の保有者もしくは第三者が、そのエネルギーリソースを集約し制御することで、発電所と同等の機能を提供する。

▼ 注13
https://sii.or.jp/vpp30/uploads/B_1_1_kepco.pdf
https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/pr/archive/2016/html/0000030663.html

▼ 注14
Aggregation Coordinator(AC)。リソースアグリゲーター(RA)が制御し創出した電力を束ね、一般送配電事業者や小売電気事業者、再エネ発電事業者等と直接電力取引を行う事業者のこと。

▼ 注15
Resource Aggregator(RA)。住宅や工場などの需要家とVPPサービス契約を直接締結して、リソース制御を行う事業者のこと。

▼ 注16
https://www.eneres.co.jp/news/release/20190617.html

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