[SDGsをバックアップする技術イノベーション]

第1回 SDGsは本当に企業に必要なのか? 日本における位置づけ

2019/12/12
(木)
新井 宏征 インプレスSmartGrid ニューズレター コントリビューティングエディター

Qualcomm(クアルコム)の例:漁村でSDGsを推進

 2019年版レポートでは、世界中のさまざまな取り組みが紹介されている。

 例えば米国・通信用半導体の大手企業Qualcomm(クアルコム)は、世界で十分にICTの恩恵を受けられていない地域において、同社の先端的なワイヤレス技術を活用して支援を行うWireless Reach(ワイヤレスリーチ)というプログラムを、2006年から展開している。

 2006年という時期からわかるとおり、このプログラムはもともとSDGs(2015年スタート)を意識して始められたものではないが、実質的にSDGsの推進に貢献している。

〔1〕4G(LTE)搭載のスマホとその教育

 Wireless Reachで取り組んだプロジェクトの1つに、Fishing with Mobile Nets(モバイルネットを活用した漁業)注11というコロンビアの13カ所の漁村で行われているプログラムがある。

 これらの漁村では、これまで網などを使った伝統的な手法で漁を行っていたが、気候変動や近代化漁業の導入の影響を受け、魚の量が大幅に減少したことで、漁獲量も減り、生活を維持するのが困難になっていた。

 Qualcommは、それらの地域に3Gや4G(LTE)機能搭載のタブレットやスマートフォンを提供し、あわせて端末やアプリの使い方を学ぶトレーニングや環境教育、持続可能な漁業に関する教育も行った。これらのツールが導入されたことで、漁村に住む人々はリアルタイムの天気情報やナビゲーションサービスを活用し、安全で効率的な漁ができるようになった。

〔2〕SDGsで月間35%もの収入アップへ

 さらに、売上や経費の管理の他、獲った魚の写真をオンラインマーケットプレイスにアップロードすることで、新しい販売機会も得ることができるようになった。

 その他にもさまざまな取り組みを行うことで、これらの地域では2015年から2017年の2年間で、平均して月間26ドル(約2,808円)の収入アップとなった。私たちの感覚からすれば、そこまで大きな増加には見えないが、もともとの平均月収が74ドル(7,992円)だったこれらの地域の人々にとっては大きな収入増となったという。

 Qualcommによるこのプログラムは、SDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」につながるだけではなく、目標1「貧困をなくそう」の達成に貢献している取り組みである。

SDGsとSociety 5.0の関係性

〔1〕日本の経団連:Society 5.0推進で評価される

 このように企業での取り組みが進む中、SDG Index and Dashboardsにおいて企業の取り組み例として取り上げられているのが、日本の経団連である。

 レポートでは、経団連が自らの「企業行動憲章」注12にSDGsの考え方を取り込んでいる点、そしてSDGsの各目標を推進するために日本の技術イノベーションを活用している点を評価している。

 経団連が2017年11月8日に発表した「企業行動憲章の改定にあたって〜Society 5.0の実現を通じたSDGs(持続可能な開発目標)の達成〜」注13では、日本におけるSDGsの位置づけを次のように紹介している。

 「経団連では、IoTやAI、ロボットなどの革新技術を最大限活用して人々の暮らしや社会全体を最適化した未来社会、Society 5.0の実現を目指している。この未来社会では、経済成長と健康・医療、農業・食料、環境・気候変動、エネルギー、安全・防災、人やジェンダーの平等などの社会的課題の解決とが両立し、一人ひとりが快適で活力に満ちた生活ができる社会が実現する。こうした未来の創造は、国連で掲げられたSDGsの理念とも軌を一にするものである。」

〔2〕SDGsの達成を目指すSociety 5.0

 ここで取り上げられているSociety 5.0は、2016年1月22日に閣議決定された第5期科学技術基本計画注14において、世界に先駆けた「超スマート社会」の実現のために掲げられたコンセプトである。この計画でイメージされている「超スマート社会」のイメージを表したものが図3である。

図3 Society 5.0が目指す「超スマート社会」の仕組み(イメージ)

図3 Society 5.0が目指す「超スマート社会」の仕組み(イメージ)

出所 Society 5.0-科学技術政策-内閣府

 図からわかるように、日本がSDGsの達成を目指すための取り組みとして掲げているSociety 5.0は、最先端の技術を活用して、私たちの生活空間(フィジカル空間)とサイバー空間がシームレスに(つなぎ目なく)つながる世界を目指している。

 日本においてSDGsは、いまだにさまざまな捉え方があり、自社とは無関係と考えている企業も少なくない。しかし、冒頭で紹介したPG&Eの例のとおり、SDGsに取り組むことは自社のリスク管理につながっていく。さらに技術を活用してSDGsの達成を目指すSociety 5.0のコンセプトを見てもわかるとおり、企業としてSDGsに取り組むことは新たな事業の機会を得ることにもつながるのである。(第2回につづく)

Profile

新井 宏征(あらい ひろゆき)

株式会社スタイリッシュ・アイディア 代表取締役社長

SAPジャパン、情報通信総合研究所を経て、現在はシナリオプランニングの考え方を応用し、事業と組織の両面からクライアントの変革を支援するコンサルティング活動に従事。東京外国語大学大学院修了、Said Business School Oxford Scenarios Programme修了。主な著書に『米国のスマートグリッド新標準:EnergyIoT/OpenFMB報告書』『スマートハウス/コネクテッドホームビジネスの最新動向2015』(以上インプレス)、訳書に『成功するイノベーションは何が違うのか?』『プロダクトマネジャーの教科書』『90日変革モデル』(以上翔泳社)などがある。


▼ 注11
プログラムの詳細はFishing with Mobile Nets参照。

▼ 注12、注13
「企業行動憲章 一般社団法人 日本経済団体連合会」参照。

▼ 注14
科学技術基本計画 - 科学技術政策 - 内閣府参照。

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