なぜ組込みシステムが普及したのか
〔1〕半導体・コンピュータ・通信の3大技術
組込みシステムは、共通のハードを土台(プラットフォーム)として、ソフトを変えるだけでさまざまな機能を付けられるようになる。1台のゲーム機にいろいろなソフトを入れて、いろいろなゲームを楽しめるのもやはり、ゲーム機にコンピュータの仕組みを取り入れているからだ。これに対して、ドラゴンクエスト専用のゲーム機を作れば性能は最高に速いかもしれないが、他には使えない。バージョンアップにも対応できないし、当然、低コストでは作れない。
組込みシステムがさまざまな電子製品に使われるようになった背景には、長期的にいろいろな技術が揃ってきたという歴史がある。特に必要な技術は、70年前に誕生した半導体、コンピュータ、通信の3大技術だ。
〔2〕歴史を変えた3大技術
半導体で、トランジスタ動作を最初に確認できたのが1947年。米国のベル研究所で生まれた。電子式のコンピュータを試作したのは、エッカート氏(John Eckert)とモークリ氏(John Mauchly)だった。通信理論を打ち立てデジタル通信の理論を提唱したのはやはりベル研のシャノン氏(Claude Shannon)だった。いずれも、1950年少し前の第2次大戦後に生まれた。
これら3大技術が誕生して、ほぼ70年が過ぎた。これらの3大技術はどう揃ってきたのか、簡単に歴史を振り返ってみよう(図3)。
図3 半導体・コンピュータ・通信の一体化
出所 筆者作成
1950年代はこれらの技術の勃興期であり、工業化するためにそれぞれの技術を確立する努力が行われた。半導体技術の進化の中でエポックメイキングな出来事は、インテルがMPU(マイクロプロセッサ)とメモリをMOS技術注6で発明したことだった。結局、このインパクトが今の組込みシステムやIoTにつながっている。
〔2〕3大技術がDX/Society 5.0を牽引
ここで言いたいことは、半導体、コンピュータ、通信の3つの技術それぞれが独自に発展してきたものの、現在はそれぞれが密接に連携するようになり、大きな産業を構成するようになっていることだ。しかも、これらの3大技術が社会のインフラにさえなっている。
これらの応用は、従来の電子産業の枠から飛び出し、IT産業は言うまでもなく、電力やガス、水道の制御・管理はもちろん、都市全体をもっとスマートに、しかも持続可能な社会作りにまで及んでいる。
このように、3大技術が社会すべてに連携するようになってきたため、デジタルトランスフォーメーション(DX)注7やデジタル社会、Society 5.0など、新しいメガトレンドのインフラを構成する。3大技術のどれが欠けても未来の社会は構築できないのだ。
今年の半導体市場予想
当初は10%近いプラス成長
2020年の半導体市場予測は、2019年11月〜2020年1月頃には、10%近い成長率が見込まれていた。各調査会社の中で、最も高い成長率をあげたのは米国ガートナーの12.5%であり、最も低い成長率をあげたのが英国フューチャーホライゾンの4%であった(2019年9月予想)。2019年11月に発表した前出のWSTSは5.9%、2020年1月に発表した英国の市場調査会社IHS Markitは7%、と7〜8%が中心値といえた。少なくとも2020年1月末までの予測では、新型コロナによる影響はまったく含まれていなかった。
これらの予想では、いずれもパソコンやスマホの市況は戻ってきて、さらにクラウド化の進展によって、「データセンターでのCPUの高速化」と「コンピュータの拡張による数量の増加」「メモリ容量の増加」などによる需要の高まりが見られてきていたために、半導体製品の売上増が見込まれていた。誰もプラス成長を疑っていなかった。
新型コロナの影響は間違いなくマイナスへ押下げる
ところが、新型コロナの影響によって状況は変わってきた。単なる需要と供給の関係だけではない。供給体制が整わないせいでもある。スマホやパソコンに使われている半導体部品は、CPUやメモリ、高速入出力インタフェースだけではない。もっとローテクの抵抗やコンデンサ、コイル、個別トランジスタなども使われている。しかも、それらの多くが中国製なのだ。
日本の村田製作所やTDK、アルプス電気などが製造するハイテクな電子部品は、他のアジア諸国ではまだ作ることができない高性能部品であり、これらはまだ日本で入手できる。いわゆるネジ・釘の類のローテク部品の多くが中国製であり、新型コロナの影響で輸入できないのである。
このため、いくらメモリが安くなり、インテルのCPUが供給できるとしても、ローテク部品が入手できない、という状態が出ている。それでも半導体製品は、米国、韓国、台湾、日本、欧州などで作られており、その供給もこれらの国々で整えられる。しかし、ネジ・釘のローテク部品は、今さら作るわけにはいかない。このため、今年いっぱいまでの供給が遅れ、スマホやパソコンなどの製品が需要に沿って十分供給できていないと見られている。
▼ 注6
MOS技術:現在の集積回路の主流の技術で、M(メタル)O(酸化膜)S(半導体)構造をゲート(入力)とするトランジスタの製造技術。最初に発明されたトランジスタはpnpバイポーラトランジスタだったが、集積化しにくく、MOS型に代わった。
▼ 注7
DX:Digital Transformation、直訳すると「デジタルによる変革」。ITの進化に伴い、企業サービスやビジネスモデルをデジタルエレクトロニクスで根本的に変革する施策。