[クローズアップ]

IEAの『世界のエネルギー展望2020』に見る脱炭素社会への展望

― 「2050年実質ゼロ」には発電約75%をCO2排出少ない電源に、50%以上の自動車を電動化へ ―
2021/01/10
(日)
新井 宏征 株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役社長

IEA(International Energy Agency、国際エネルギー機関)は、2020年10月13日に『世界のエネルギー展望2020』(World Energy Outlook 2020)(注1)を公開した。
新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の拡大は、私たちのエネルギーの使い方に影響を与え、ひいてはエネルギー業界全体に大きな影響を及ぼしている。そのような中で公開された同レポートでは、COVID-19によって現在起きている影響を分析したうえで、それらも考慮した新たな分析を踏まえて、エネルギーの未来についての可能性を示している。
ここでは、日本における2050年カーボンニュートラルの検討状況に触れたあと、『世界のエネルギー展望2020』をもとに、今後のエネルギー需要変化の想定を確認し、脱炭素化に向けた取り組みについて紹介する。

日本における「2050年カーボンニュートラル」に向けた動き

 内閣官房の成長戦略会議は、12月1日、「実行計画」注2を公開した。同計画は、ポストコロナ時代を見据えた「新たな日常」の早期実現に向けた施策を整理したもので、中間的な取りまとめとして位置づけられている。

 「はじめに」から「フォローアップ」までの全15章から成る実行計画では、冒頭で成長戦略の考え方を解説したあと、第3章において、さまざまな施策に先んじて「2050年カーボンニュートラルに向けたグリーン成長戦略」を紹介している。この第3章の冒頭では、「我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」という目標を明示し、講じる支援策として表1のような3点を示している。

表1 成長戦略会議「実行計画」で示されている2050年カーボンニュートラルに向けたイノベーション推進のための支援案

表1 成長戦略会議「実行計画」で示されている2050年カーボンニュートラルに向けたイノベーション推進のための支援案

ESG投資:従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮した投資のこと
出所 「実行計画」資料をもとに筆者作成

 この他にも、エネルギーや環境政策の再構築、そしてグリーン成長戦略の実行として、水素や自動車の電動化、カーボンリサイクル、洋上風力の推進などについても言及している。

IEAとWorld Energy Outlook

 2050年カーボンニュートラルに向けて積極的な取り組みを進めていこうとしている日本だが、世界の動きはどうなっているのだろうか。それを考える一助となるものがIEAが2020年10月13日に発表した『世界のエネルギー展望2020』(World Energy Outlook 2020)である。

 IEAは、第1次石油ショックをきっかけとして、エネルギー安全保障やエネルギー政策に関する国際協力のために1974年11月に設立された組織であり、このWorld Energy Outlookをはじめとして、エネルギーに関連するさまざまなデータ分析や情報発信を行い、各国のエネルギー政策の立案や国際協調に貢献している注3

 World Energy Outlookは1977年に初めて発行され、1998年以降は毎年発行されている。World Energy Outlookを紹介するWebページ注4のトップには、“The gold standard of energy analysis”(エネルギー分析の標準モデル)というコピーが掲げられている。

 World Energy Outlookの特徴は、世界のエネルギーの将来について、単一の予測を示すのではなく、シナリオと呼ばれる複数の可能性を示している点にある。不確実な時代においては、経済や社会の影響や政治の対応など、さまざまな要因がエネルギーの将来に影響を与える。これによって、環境変化におけるさまざまな可能性を考慮することができるようになっている。

『世界のエネルギー展望2020』の4つのシナリオ

 『世界のエネルギー展望2020』では、次の4つのシナリオをもとに、さまざまな分析がなされている(表2)。

表2 IEAの『世界のエネルギー展望2020』(World Energy Outlook 2020)における4つのシナリオ

表2 IEAの『世界のエネルギー展望2020』(World Energy Outlook 2020)における4つのシナリオ

出所 World Energy Outlook 2020 shows how the response to the Covid crisis can reshape the future of energy、および「世界エネルギー見通し2020年版(World Energy Outlook 2020, WEO2020)(電力・原子力中心に)概要紹介版」をもとに筆者作成

 以降では、これら4つのシナリオを踏まえ、同レポートに関連する各種公開情報注5をもとに、IEAの最新の分析を紹介する。


▼ 注1
IEA「World Energy Outlook 2020」

▼ 注2
全21ページ。

▼ 注3
IEAの詳細については、例えば「OECDの概要:国際エネルギー機関(International Energy Agency:IEA)」などが参考になる。

▼ 注4
https://www.iea.org/topics/world-energy-outlook

▼ 注5
・プレスリリース
World Energy Outlook 2020 shows how the response to the Covid crisis can reshape the future of energy - News - IEA
・プレゼンテーション
https://iea.blob.core.windows.net/assets/fd69e584-f43f-400b-9702-f5a6dc9c3156/WEO2020-Launch-Presentation.pdf

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