[クローズアップ]

産業界のDX/Society 5.0を牽引する2020年の半導体市場はどう変化するか

― 新型コロナでプラス成長予想が一転、マイナス成長へ ―
2020/05/09
(土)
津田 建二 国際技術ジャーナリスト

新型コロナの影響で市場予測はどこまで下がるか

 それでは、一体どのくらい半導体市場予測は下がるのだろうか。

 実は、各市場調査会社はこの手のシミュレーションの経験があまりないため、GDPの落ち込みから半導体IC市場の落ち込みを推測する方法だったり、いくつかのシナリオを描く方法で表したり、主な市場から積み上げる方法をとったりしている。

〔1〕米国IC Insightsの予測

 半導体市場調査専門の米国IC Insightsは、2020年1月に8%成長と見ていた。この時は、まだ新型コロナの影響を議論していなかった。しかし、これが3月には3%成長と下方修正し、さらに4月には4%のマイナス成長とした注8

 米国における新型コロナの感染者は3月12日に1,630人、死亡者41人だったが、4月9日時点では感染者45万4,615人、死亡者

1万6,074人と極めて大きく増加した。これに基づき、GDPが2009年のリーマンショック時と同じ−2.1%になるとし、半導体を−4%としたようだ。しかし、詳細については述べていない。

〔2〕米国IDCの予測:4つのシナリオ

 米国IDCは、半導体市場はサプライチェーンの回復と関係すると見て、次の4つのシナリオを描いた注9

■シナリオ1:世界の半導体市場が12%以上マイナスとする場合

■シナリオ2:落ち込みが−3〜−6%の場合

■シナリオ3:+2%成長の場合

■シナリオ4:6%以上成長する場合

 これらのシナリオごとに、サプライチェーンの回復見込み時期、世界経済や技術需要が崩壊する時期、もっと広い範囲の業界に影響を及ぼす時期、などを想定している。この中で−6%が最も確からしい、という予想となった。そのようになる確率は54%だという。

 この想定をもとに、サプライチェーンの回復時期から判断して、影響を及ばす金額が258億ドルと予測した。ただし、新型コロナに関する知識が蓄積され公的な健康機関のプロジェクトなどが始まれば、新型コロナの害を緩和し、上記予測よりも下がると見ている。

表2 米国ガートナーが見る各分野の成長率

表2 米国ガートナーが見る各分野の成長率

出所 ガートナー取材をもとに筆者作成

〔3〕米国ガートナーの予測

 米国のガートナーは、2月に新型コロナへの影響を見通しの中に組み込み、年初の予想よりも2.3%ダウンの+10.2%成長にとどめた。しかし、米国での新型コロナ感染の勢いは増すばかりであったため、見込みを

−0.9%の4,154億ドルに減らした。ガートナーが使ったのは、各産業の成長率の見積もりである。表2のように、自動車産業は世界各地で生産が休止しているので−13.7%とし、コンピュータは+2.0%と見ている。

 一方、テレワークが推奨されることによって、パソコンやビデオ会議はサービスが盛んになるため、ややプラスと見ている。さらにテレワークだけではないが、クラウド需要が企業を中心に高まるため、データセンターのストレージは大きく伸びそうだ。NANDフラッシュの価格も少し値上がりしてきており、NANDフラッシュは利益を上げられそうだ。

〔4〕日本総研の予測

 日本総研は、2020年4月10日に新型コロナの影響を発表した注10

 2月までの好調さから6月には28%もマイナスに落ち込むとしているが、その根拠はスマホと自動車、家電という民生市場が半導体消費の過半数を占めるため、その落ち込みが激しくなる、と見ている。ただし、その後には急回復がありうるというシナリオも描けるが、2020年全体の見通しとして、30%減少するという可能性もある、と最も悲観的に見ている。

 4月20日現在での各市場調査会社の予想は、マイナス成長に転換したが、新型コロナの回復状況によって、更なる修正がある可能性も否定できない。

 ただ、半導体産業は「Essential Business」(なくてはならないビジネス)と米国や日本で認定されているため、クルマと違って工場は稼働し続けられる。

 需要さえ確実にあれば生産は十分できる。中国でさえ、都市封鎖が起きた武漢市にあるYMTC社はNANDフラッシュの生産を、限定生産ながら続けていた。4月8日に封鎖が解除された後は、フル生産に切り替えた。マレーシアにあるルネサスやインフィニオンなどの半導体アセンブリ工場でも、限定ながら生産を続けることができた。それは、「なくてはならないビジネス」だからである。

今後はITのメガトレンドを知るべき

 半導体産業がITと密接に関連するようになった今、半導体市場の未来を知るにはITのメガトレンドを知る必要がある。

 そして半導体企業を成功させるためには、何よりもITと同様、素早い判断が欠かせない。日本が、半導体産業で負けた最大の原因はここにある。では、現在のメガトレンドは何か。IoT、AI、5G、自律化、セキュリティである。

 ここではそれぞれについて詳しく述べないが、IoTはDXへ進化し、AIはソフトからチップ設計へ進み、5Gは10年かけて進化し続ける。また、制御システムでは自動化から自律化へ進み、これらのメガトレンド全体をセキュリティが包むことになる。

 これらのメガトレンドをしっかりつかむことこそ、半導体市場の未来をつかむことになる。

筆者Profile

津田 建二(つだ けんじ)

現在、英文・和文のフリーの国際技術ジャーナリスト兼セミコンポータル編集長兼News & Chips編集長。日経マグロウヒルやReed Businessなど半導体・エレクトロニクス産業を40年取材してきた。欧米アジアの技術ジャーナリストと幅広いネットワークをもつ。


▼ 注8
Global IC Market Forecast Lowered From 3% to -4%、IC Insights, 2020年4月9日

▼ 注9
COVID-19 To Have Significant Effect on Worldwide Semiconductor Market in 2020, According to IDC、2020年3月18日

▼ 注10
新型コロナ不況で半導体市場は急速に悪化へ— テレワーク需要のみでは力不足、今後の消費急減は相殺できず 、2020年4月10日

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